TOP>第1幕 動乱萌芽>ユウキ編 終楽章 ファースト・コンタクト


ホウエンに到着したユウキは、真っ先にオダマキ博士の研究所に来ていた。
勿論、ここに呼び戻された用件の詳細を訊くためだ。


オダマキ「君を呼んだ理由は昨日伝えた通り。
     ハルカはヒマワキシティ周辺にいるはずだ。」

ユウキ「あと、雇った人の名前を訊いておきたいです。
    もしかしたら途中で会うことになるかもしれませんし・・・・・・。」


同じ者を捜索している以上、出会う可能性はある。
もし合流すれば情報の交換が出来るなど、何かと都合は良い。


オダマキ「彼はタイトと名乗っていたな。
     私が貸し与えたハクリューを連れているはずだ。」

ユウキ「うん、大体のことは分かりました。
    それじゃあ、また何か分からないことがあれば連絡します。」


彼は一度、同じミシロタウンにある実家に戻って身支度を整えてから捜索へと発った。


ユウキ編 終楽章 ファースト・コンタクト




オオスバメ「空からは見つけられなかった。」

ユウキ「流石に空から探すのは厳しいか。
    草も高いしこの雨だから仕方がないな。」


現在、捜索開始から1時間ほど経った所。
119番道路側を細かい所は地上のユウキが、広域を空からのオオスバメが手分けをして捜索していた。


オオスバメ「そろそろ羽が重くなってきたゆえ、休憩させて貰う。」

ユウキ「うん、分かった。」


ユウキは傘を左手に持ち替え、少し高く上げる。
オオスバメは彼の右腕のリストバンドの上に留まり、羽を乾かすために、ユウキの顔にあたらないよう翼を片方ずつはばたかせる。


ユウキ「ほんと、なんか良い探し方はないのかー。
    どう考えても見付かんねーぞー。」


独り大声で言って、出るのはため息だけ。
多少気分がスッキリするも、逆にその分疲れを感じる。


ユウキ「お前しかいないんだから、なんか言ってくれよ。」

オオスバメ「無理を言うな、大体考えがあれば既に言っている。
      それにあんな喋り方をする奴に関わりたくはない。」

ユウキ「この薄情者。」

オオスバメ「当然の反応だ。」


やる気が無くなって来たユウキ。
しかし幸か不幸か、彼のやる気を奮い立たせる出来事が起こることになる。

その始まりは彼の向かいから走って来た男。
のんびとり歩いていたユウキは彼に挨拶をするも無視される。
そのまま一切目もくれずに側を走り去っていった姿に、ストレスが溜まっていることもあり少しイラッとくる。


ユウキ「なんだよ、道路ですれ違った奴に一瞥も無しか。
    俺が旅してた頃はみんながみんな挨拶してたってのに、今はこんな奴もいるのかよ。」

オオスバメ「確かに良い気はしない。
      しかしお前・・・老けこんだな。」

ユウキ「・・・・・・。」


全てと言ってもいい程の人々が、この場所のように人通りが少ない道ですれ違う時には挨拶をする。
それは互いを励ます言葉であり、労いの言葉。
特に旅をする者にとっては、果てしない道のりの中における貴重な他人との出会いであり、ささやかながら勇気づけられる。

それゆえ旅をする者が多いこの世界では、このような場所では自然と皆が挨拶をする。
人として当然と言える行為だ。

しかし男はそれをしなかった。
挨拶されて当然と思うことはおこがましいことだが、相手にとる態度としては決して褒められたものではない。

だから挨拶が当たり前の時代は崩れ始めているのかと思ったユウキは先の様にぼやいたのだった。

イラつくユウキは落ち着きなく視線を動かす。
その時、川を挟んで向こう岸にある、お天気研究所から出てくるたくさんの人影を見つけた。
見れば先程の男と同じ格好の者も多くいる。


ユウキ飛燕[ひえん]、悪いけど休憩はもう終わりだ。
    いいものを見つけたし、お天気研究所に寄るぞ。」

飛燕(オオスバメ)「・・・・・・確かにあれは気になる。」


























アクア団員「お前、脚の方を持ってくれよ。」

アクア団員「オーケー・・・・・・よっ、と。」

監視されていた研究員「ココマデカ...。」


イズミによる撤退指示が出さた後、団員の撤収は速やかに進んでいた。


アクア団員「イズミさん、団員の撤退は順調に進んでいます。
      報告にあった倒された者の回収も順調だそうです。」

イズミと呼ばれたリーダーらしき女性「ならば私たちもすぐにここから出ましょう。」

アクア団員「彼女はどうするのです?
      後始末は彼女がすることになっていましたが、何者かがここに侵入している以上、1人でやらせるのは危険では。」

イズミ「あの子なら1人で大丈夫でしょう。
    どうしてもと言うなら、あなたから手伝うことが無いか訊けばいいわ。
    でも1人で後始末をすることは、彼女が自分から望んだこと。
    恐らく断られるでしょうね。」

アクア団員「・・・それでも、訊いてみるだけ訊いてみようと思います。」

イズミ「そう・・・あなたが自分で納得のいくようにしなさい。」

「あ・・・。」「誰・・・?」「え・・・?」


2人が会話しているさなか、拘束している者達がざわめき出した。
その言葉から察するに、彼らも知らない者がいる・・・"侵入者"か。

彼らの視線は、イズミ達の斜め後ろの方向。
そちらの方を振り向くと、青年が窓を開けていた。


イズミ「何者です。」


彼女の声に振り向く青年。
そして彼の顔を見たイズミと側近の団員は顔を青ざめる。

彼女達は当然、その顔を知っていた。
しかし無意識のうちに自分の知っている者がここにいるはずはない、と自分に言い聞かせようとしていた。
むしろそう願いたかった。

だがそれは一瞬にして儚く散る。

青年がイズミの問いに答えるために口を開く直前、拘束している者たちの中からその答えが飛んできた。
その答えを発したのは、ユウキが探していたオダマキ博士の娘。


ハルカ「ユウキ君!」

ユウキ「ビンゴ! まさかここにいるとは思わなかったぞ!」


ユウキは自分のポケモンに"テレポート"を使わせ、直接この部屋へと入り込んでいた。

彼はオオスバメに捕まって部屋を外から覗き、捕らわれているハルカを確認。
研究所の窓は強化ガラスゆえ、力では破壊できないと踏んでこのような回りくどい侵入手段をとったのだ。


アクア団員「"侵入者"がまさか貴方だったとは。」

ユウキ「へぇ、俺以外にもここに侵入した奴がいるのか。」

イズミ「では私の部下達に危害を加えたのは貴方ではないと。」

ユウキ「なるほど、お前がリーダーか。
    俺がどうするかは、お前ら次第だな。」


ユウキは今自分がいるのとは異なる場所の窓から外へ逃げようとするアクア団員達は無視してイズミに話し続ける。


ユウキ「言わなくても分かるよな。
    おとなしくしておけよ。」

イズミ「逆に貴方におとなしくしておいて貰いたいわ。」


武力行使で道を開ける為、イズミはトドセルガを、団員の方はグラエナを繰り出す。
これを見てユウキも素早く腕をひき、ボールを投げる動作に入る。
その瞬間、ユウキの開けた窓から強い風が吹きこんで来た。


イズミ「何?!」

ユウキ常葉[とこは]、頼んだ!」


彼が出したのは同じ狭い室内でも敏捷性が全く落ちず、逆に壁を利用出来る分機動性を活かせるジュカイン。

既にイズミと団員は自分のポケモンに指示を出していた。
グラエナは攻撃のためにジュカインの方へ向かってきており、その後ろではトドセルガが"吹雪"を放つ態勢に入っている。

先制をしたつもりの2人であったが相手とは格が違った。


ユウキ「トドセルガにギリギリまで近付け!」


指示が出されると同時にジュカインはグラエナの脇を通り、真っすぐにトドセルガの方へ向かう。
グラエナはすれ違いざまに"リーフブレード"を叩きこまれ戦闘不能にこそならなかったものの、大きなダメージを負う。
それもジュカインのスピードの前に一切の反撃も叶わないまま。

窓から吹き込む風にも乗って猛スピードで近付くジュカインの姿に動揺し、慌てて攻撃するトドセルガ。
この瞬間を待っていたかのように、ジュカインは跳ぶ。

ギリギリまで攻撃を引きつけられ、さらに至近距離で宙に逃げられたため"吹雪"の攻撃方向を変えることは不可能。
そして攻撃直後の無防備な状態を晒すことに。


ユウキ「"リーフストーム"!!」


重鈍なトドセルガはすぐに回避行動に移ることは出来ない。
頭上で発生した"リーフストーム"をモロに喰らい、こちらは一撃で戦闘不能に。

戦闘開始からこれまでわずか十秒前後。
イズミの方としては、レベルの違いや相性関係を考慮してもここまであっさりとやられるとは思ってもいなかった。


イズミ「こんな一瞬で?!」

ユウキ「最初っからフルに飛ばすのは俺達の性に合わないが、今はこれが一番だろうからな。
    それじゃあ大人しく拘束されて貰おうか。」


床に着地すると同時、グラエナへトドメの一撃を加えるために動くジュカイン。
窓から吹き込む風を避けるために大きく回り込み、部屋の壁を伝い接近、"リーフブレード"がグラエナに迫る。

レベル差の前に攻撃をかわすことは叶わないと悟ったグラエナとトレーナーである団員はパニックに陥る。
最後の足掻きとして、接近する瞬間を何とか捉えて反撃しようとするグラエナは完全に平常心を失っている。
その姿にジュカインとユウキは勝利を確信した。
強張ったその身体は隙だらけ、ジュカインは攻撃を加えるため手を伸ばす。

・・・だが、その身体は大きく横に吹き飛ばされ、突然のことに驚愕し、受け身も取れないまま壁に叩きつけられる。
助かったものと思っていた拘束されている者たちから悲鳴が上がる。

"不意討ち"だった。

平常心を失っていたグラエナにとれる行動ではなかった。
それが証拠に、今まさにジュカインがいた場所にはゲンガーの姿がある。


ゲンガー「急げ、今の内だ!」

イズミ「え、ええ。」


少なくとも目の前の2人のゲンガーではない。
ということは、まだ倒すべき相手がいるということ。

そしてその相手はユウキの方から探す前に現れる。
その者は壁に激突したジュカインが立てた大きな音を聞き付けていた。

ユウキが起き上がったジュカインに対して指示を出そうとした時だ。
突然戸が勢いよく開けられ、キュウコンが現れる。


ユウキ「!! "見切り"の態勢に入れ!」


ジュカインが"見切り"の態勢に入ると同時にキュウコンは"火炎放射"を放ってきた。
"見切り"による最小限の動きでもギリギリでしかかわせない突然の攻撃だった。


ユウキ「ボールから出て僅かな時間で攻撃してくるなんて、あのキュウコン・・・かなりのレベルだな。」

常葉(ジュカイン)「どうする!?」

ユウキ「こいつは玲瓏[レイロウ]で相手をする!
    お前はあいつらを捕らえろ!!」

アクア団員「イズミさん、足止めしてるうちに早く逃げて!」


戸の向こうから現れた新たな女性のアクア団員。
そして気付けばゲンガーの姿は消えていた。

ゲンガーのことはひとまず忘れ、団員が叫ぶ間にユウキは新しくポケモンを繰り出そうとする。
しかし何も特別なことではないその普段ならば簡単な動作も、彼が普段とは違う状況にいる今は簡単にはいかなかった。

ボールを投げようとするその直前、キュウコンと一瞬目が合う。
と、ボールを投げようとしていた彼の動きが止まる。
キュウコンはそんな彼の目の前で、イズミらを追うジュカインを狙って"火炎放射"を放った。

その光景で我に返った彼は慌ててジュカインに攻撃回避の指示を出す。

だが攻撃を回避させた結果、いや、回避しなかったとしても同じ結果になっただろうがイズミ達には逃げられてしまった。
そして今の出来事でユウキは頭に血が上った。


ユウキ「佐世保送りにしてやろうか‥‥‥?」

アクア団員「(ちょっと何言ってるか分からないけど・・・、)
      目的を成すため・・・恨まないでちょうだい。」


キュウコンと目が合った時、彼は"金縛り"をかけられたことで身体の動きが一瞬止まってしまった。
こういった無法の戦いの経験が無かった彼には予想外の事だった。

しかし彼もそれを覚えた以上、そう簡単に2度目は通用しない。
今度は周囲に注意を払いつつミロカロスを繰り出し、ジュカインをボールに戻す。


ユウキ「玲瓏、今日の俺は変な指示を出すかもしれない。
    それでも信用してくれ。」

玲瓏(ミロカロス)「それはいつものことでしょう。
         いつも通り、あなたの采配に期待してます。」


ミロカロスの方は何を今更と言った感じだが、ユウキの方は真剣そのもの。
両者の間に感覚の隔たりを残したまま戦いは再開される。

アクア団員が既にボールを構えているのを見て、交代の意思を持っていることをユウキは確認。
問題はどのタイミングで繰り出してくるかだ。

ボールを投げ、ボールからポケモンが出されるまでにタイムラグが生じる。
そのため相手が指示を出し終わった後では、相手の攻撃に割り込んで出すことは出来ない。
そして何も考えずに出せば、ボールから出た直後を問答無用で狙われる。
戦いの流れを左右する重要な駆け引きだ。

この局面で先に動いたのはユウキ。


ユウキ「玲瓏――」


アクア団員は、ユウキが指示を出そうとしたこの瞬間に動いた。
彼女はキュウコンに対してストレートな攻撃を指示してくると読み、ミロカロスの名を呼んだ瞬間にボールを投げた。


ユウキ「――"凍える風"!!」


彼女の予想は外れた。
ユウキは交代してもしなくても命中すれば機動力を奪い、その後の戦闘を有利に運べる"凍える風"での攻撃を選んだのだった。
窓から吹き込む強風に乗った"凍える風"はすぐに団員達の方へ流れていく。

しかし団員がキュウコンの盾として繰り出したのはハピナス。
元から機動力が高いポケモンではないためにユウキが"凍える風"に期待した効果はあまり得られない。
それでもミロカロスの攻撃中はその効果がある以上、ハピナスもキュウコンも迂闊に動けないという副次的効果はある。

それを利用してユウキはすぐさまエルレイドを繰り出した。
驚異的な特殊防御力を誇る厄介なハピナスを"インファイト"にさえ持ち込めば一撃で倒せる可能性があるのは大きい。

だが、この戦いの真意を理解していなかったミロカロスはこの状況に戸惑う。


玲瓏(ミロカロス)「これは・・・どういうこと?
         ダブルバトルなのかシングルバトルなのかハッキリしないじゃないですか。」

ユウキ「この戦いにルールなんて無い・・・・・・そういう事だ。」

エルレイド「面白そうじゃん、存分に動けそう。」

ユウキ「ほら、お前も白麗[ハクレイ]を見習えよ。」

玲瓏(ミロカロス)「流石についていけない・・・・・・。」

白麗(エルレイド)「そんなこと言ってる暇ないよ。」


既にキュウコンはエルレイドの行動を妨害するために動いていた。
ハピナスへの"インファイト"を阻止するための行動ということはユウキにも分かっていた。


ユウキ「白麗、"神秘の護り"!」


エルレイドを力を以って止めることはキュウコンにとって容易いことではない。
窓から吹き込む強風を味方につけている現状ではなおさらだ。
ならば補助技を絡めて来ると踏んで、一歩下がって守りの技を使う。
状態異常を無効にする、淡く光る神秘のベールは使用者であるエルレイドだけでなく、ミロカロスをも包む。

団員は仕方が無く"炎の渦"でエルレイドの動きを牽制する手をとることにする。
その際に伴う攻撃動作をミロカロスに狙われていることを把握していた彼女は、
攻撃中でも動きを止めることが無いようにジャンプしてからの攻撃を指示。

しかしその程度の動作で攻撃を簡単に外してくれるはずもなく、ミロカロスは狙いを定めて"ハイドロポンプ"を放つ。
・・・が、攻撃はギリギリの所で外れてしまった。
間髪入れずに放った"水の波動"もまた、キュウコンが攻撃中で無いこともあり造作なく避けられる。

結果として相手にダメージを与えられずに、"炎の渦"によってエルレイドの動きが制限された状態になってしまった。
さらに周囲を囲む炎により視界を遮る効果もあるため、細かい位置取りが要求される戦闘中の"テレポート"も使用できない。
キュウコンは再びハピナスの側に戻っている。


ユウキ「"サイコキネシス"・・・その場から動かず、盾になるか。」

アクア団員「でも直後の"水の波動"には驚いたわ。
      動じることなく、出の速い技の指示を出すなんてね。」


初撃の"ハイドロポンプ"が外れたのはハピナスが"サイコキネシス"によって放たれる水のスピードが少しだけ落とされたからだった。
距離と技の威力の問題から大きく減速させることは出来なかったが、かわすだけならばキュウコンに機動力があることも含めて十分。
      

アクア団員「そして常にミロカロスの影に隠れるように動く貴方自身のポジショニング。」

ユウキ「ゲンガーのことを俺が忘れてると思ったか?
    どうせお前のなんだろ。」


この状況で彼は目の前の攻防は勿論のこと、目に見えない敵のことも考慮していた。

その相手に対する最大の防御は隙が無いと相手に思わせること。
隙を見せれば姿を現し、自分や手持ちのポケモン達に確実に攻撃を加えられる。
これがユウキの考えだ。


アクア団員「ええ・・・でも、貴方は警戒し過ぎかな。」


その言葉と同時にユウキ達の助けとなっていた"追い風"が止んだ。
彼は思わず窓へと駆け寄り、窓枠を握り、身体をのり出して外を見る。
そこには戦闘不能となり、地面でへたれているオオスバメの姿があった。
団員の言葉から察するに、ゲンガーの奇襲を受けてやられてしまったのだろう。

イズミ戦の直前、普段とは異なるボールの投げ方を合図とし、今まで屋外から"追い風"を吹かせていたオオスバメ。
ユウキが最初に窓を開けたのもこのためだった。
しかしこれ以上はもう恩恵を受けることは出来ない。

唇を噛みながらオオスバメをボールに戻すユウキへと団員は声をかけてきた。
彼は顔を団員の方へと向ける。


アクア団員「単に本人を真似てるだけだと思っていたけれど、その実力からみて本物ね。
      4年前のホウエンチャンピオンのユウキさん。」

ユウキ「そういうお前はなんなんだ?
    ホウエンでトップを狙えるくらいの実力がありそうじゃないか。
    コゴミやダツラの奴に全くひけを取らない。」

アクア団員「貴方とは実戦での鍛え方が違うのよ。」

ユウキ「でも、そう言う割には忘れてないか?
    お前は"インファイト"を恐れているようだが、エルレイドの強みはそれだけじゃない。」


その言葉を合図に"炎の渦"の中から次々と"サイコカッター"が放たれる。
炎により視界が遮られる"炎の渦"の中から放たれたがゆえに狙いはかなり甘い。
しかしそこにもう1体の攻撃が重ねられればどうなるか。

ミロカロスの"水の波動"が小刻みに2体に向かって放たれる。
この2重の攻撃を前にキュウコンは前に出ることが出来ず、乱れ撃たれる"サイコカッター"が牽制の役割を果たしその場からに移動を封じる。


アクア団員「("軽攻"・・・厄介な相手ね・・・・・・。)」


一撃の威力よりもテンポ良く攻撃を繰り出すことに重点を置いた"軽攻"。
そのテンポで戦闘の流れを作り支配することで、相手のペースは乱されることになる。

そして攻めあぐねている内に状況はさらに悪化する。
"水の波動"を幾度も浴びることでハピナスは混乱しかけており、いつしか"炎の渦"も消えていた。
さらに握りかけている主導権を確実なものにしようと、ユウキは新たなボールを構えている。


ユウキ「この戦いにルールなんて無いんだよな?
    そっちがあくまで2体で戦うというなら、こっちは3体でいかせて貰う!」


その言葉とともに繰り出されるはライボルト。
普通の相手ならば逆にチャンスともいえるこの行動が、今の相手が行えば自分が絶対的に不利な状況に陥ることを彼女には分かっていた。

入り乱れた状態で同時に3体のポケモンを出して戦うこと・・・・・・言うだけならば簡単だ。
だが3体ともなると位置関係を把握し指示を出すことが非常に困難であり、普通のトレーナーにはまず出来ない。
数々の戦いを積んで"経験"と"信頼"を培い、次にトレーナーが何をするのかを予想しつつある程度は自分で動けないことには成り立たない。


ユウキ流霆[ルテイ]! "電磁波"でキュウコンの動きを止めろ!!」


エルレイドが自由に動けるようになれば、城塞となっているハピナスを崩せるようになる。
そうすればキュウコンでもどこに潜んでいるか分からないゲンガーでも、集中攻撃で倒していくことが可能となる。

当然、団員の方としても簡単にキュウコンの自由を奪われたくは無かった。
既にその行動を読んでいた彼女は、ユウキがボールを構えた時点で指示を出していた。
しかし選択はまたもエルレイドへの"炎の渦"。
何が出てくるか分からず、対応手段が不確定な防御よりも、確実に足を止められる攻撃を選んだのだ。

そして攻撃中だったこともあり、今回は回避行動をとれずに"電磁波"が命中した。


アクア団員「(相手が相手だし、下手に守りに徹するのは厳禁かな。
       でも、少しでも深く攻めたら"軽攻"の餌食・・・上手くかわさなくちゃ。)」
ユウキ「(チッ・・・キュウコンに防御させないのは予想外だったぜ。)」


相互防衛の関係にあるキュウコンとハピナス。
どちらかを欠くことを恐れて、キュウコンに防御させた隙を突くのが本来の狙いだった。

だが今の攻防においてキュウコンには"電磁波"が命中し、機動力を削ぐことには成功した。
ただ戦闘時間が多少伸びただけで何も変わってはいない。
ユウキはそう思っていた。


ユウキ「流霆、玲瓏! キュウコンを倒せ!!」
アクア団員「メルセスは"癒しの鈴"! カルメナは"守る"のよ!!」


指示は同時、しかし勝負を急いでしまったユウキは読み合いに負けた。
もしも指示を出すのが遅ければ、先程の行動が無に帰すことは無かっただろう。

タイミングを合わせて瞬間的に炎を身に纏うことに全神経を集中させることで、2体の攻撃から身を"守る"キュウコン。
そして完全フリーになったハピナスがキュウコンの麻痺状態を治癒させる"癒しの鈴"の音ともいうべき美しい歌声を響き渡らせる。

結果としてライボルトを繰り出す前と同じ状況に。
ユウキの打った手が悉く失敗、戦闘の流れは団員の方へと傾きつつあった。

そして彼女はこの隙に後ろを振り向き大声を発した。


アクア団員「ミスティス、後は適当に時間稼ぎをしといて!」


ユウキの方はこの間にて、頭を冷やすために自分の頭を一度軽く小突く。


ユウキ「(らしくない・・・やっぱ、慣れないことはしたくないもんだな。)」


団員は先の言葉を発した後、すぐにまたユウキの方へと向き直っていた。

どうやら扉の向こう側には"先客"がいるらしい。
だがそちら側への意識を捨ててこちらに完全に意識を向けたということは、これからは今まで以上に一筋縄ではいきそうにない。

その意識もあり、傾き始めた戦いの流れを再び引き寄せるべく、ユウキはすぐ動く。
リフレッシュした彼の頭には新たな手が浮かんでいた。


ユウキ「白麗、"未来予知"をしろ!」

アクア団員「("未来予知"? エルレイドに使わせるなんて、一体何を・・・。)」


"未来予知"は特殊攻撃に属する技。
しかしエルレイドは特殊攻撃力に比べて物理攻撃力の方が格段に優れている。
確かに現在は"炎の渦"に閉じ込められており、接近戦での技が殆どの物理攻撃は活かしにくい。
だが、エルレイドには先程も使ってきたように"サイコカッター"という中距離で使える物理攻撃技がある。
さらに相手にしいるのはキュウコンにハピナスと特殊防御力の高い2体。
ゆえに彼女にはこの一手の意味が分からなかった。

これは指示を受けたエルレイドの方も同じだった。
しかし意味を理解し、実際に行動に移してみてその指示が正しいものだと分かる。

彼の口元はニヤケていた。
だが、"炎の渦"の中にあるその顔が見えた者はいない。


ユウキ「"読めた"な、白麗?」

白麗(エルレイド)「うん、すっごい久しぶりだったけどバッチリ。」


エルレイドからの返事を聞いてユウキはひとまず安心する。


ユウキ「さて、"未来予知"はさせたが、それまで待ってられないからな。
    また頼むぞ、流霆!」


指示を受けたライボルトは再びキュウコンに狙いを定める。
団員の方は同じ手は喰わまいと、そして防戦の状況を打破するための一手を狙い指示を出す。


アクア団員「メルセス、"神秘の護り"を! カルメナは前に出てやり過ごして!!」


"電磁波"を防ぐための"神秘の護り"をハピナスから受けたキュウコンは、相手が攻撃に切り替えた場合でも、攻撃の射角の変更に時間がかかるライボルト後方へ向けて駈ける。
互いに高い素早さを持つため、行動に出た直後にすれ違う。
その瞬間のあたりで団員は追加の指示を出した。


アクア団員「ライボルトに"炎の渦"!」


攻撃をやりすごされ、追いかけるために方向転換のために動きが止まった僅かな隙を狙われたライボルトは"炎の渦"に囚われる。
気付けばライボルトはキュウコンとハピナスに挟まれていた。
キュウコンが前に出たことで誘い込まれる形となっていたのだ。


アクア団員「これで貴方が動かせるのはミロカロスだけ。
      1匹ずつ倒させて貰うわ。」

ユウキ「簡単にさせるかよ!」


攻撃阻止のため、ミロカロスは"凍える風"を放つ。
キュウコンの機動力が奪われるのを団員が嫌い、攻撃をキャンセルすることを見越したユウキの指示だ。

だが後方のハピナスの支援がそれを許さない。
キュウコンの前方へ向けて、"火炎放射"を行ってきた。
"火炎放射"によって暖められた"凍える風"はただのそよ風。

そして"火炎放射"の中をキュウコンは通過していき、その"貰い火"を戴く。
これによってキュウコン自身の炎技の威力が底上げされる。

攻撃準備が整い、エルレイドを包んでいる"炎の渦"に向け、こちらも"火炎放射"を行おうとする。
視界を奪われている為に"サイコカッター"で攻撃阻止もできず、成す術は殆ど無い状態だ。

しかしエルレイドは"未来予知"によってこの光景を予知していた。
過去に約束された攻撃はキュウコンの体勢を崩すために無防備な腹部へ。
が、特殊攻撃の苦手なエルレイドが使う"未来予知"程度では、高い特殊防御力を持つキュウコンの攻撃を止めるに至らなかった。

この窮地にユウキから出た言葉は・・・、


ユウキ「バーカ、罠だよ。」

アクア団員「え・・・?」


この声を合図とし、ハピナスの真後ろにエルレイドが"テレポート"してきた。
当然、"テレポート"は不可能な状況と思っていた団員は驚く。

伏線は"未来予知"。
一度たりとも移動を行わないハピナスの位置を、それによって確認。
ユウキの考えをエルレイドが"読んで"くれたために無事成功した。

そしてライボルトの動きはキュウコンをハピナスから遠ざける為の陽動だった。
距離が開いてしまっため、今度は攻撃を妨害しようとしても間に合わない。

満を持して"インファイト"に持ち込もうとするエルレイド。
ルールの無い戦いだからこそ使える、この戦いにおける5つ目の技だ。


白麗(エルレイド)「それじゃあ・・・」


確実に狙いを定め、腕を引き、腰を捻る。
ハピナスの方もどうにかしようとはしているが、エルレイドにとっては悪掻きにしか見えないレベルのもの。
彼はこの一撃による勝利を確信していた。


白麗(エルレイド)「ねっ・・・!!」
ユウキ「攻撃中断だ!」


攻撃の刹那、ユウキはイレギュラーに気付き、慌てて叫ぶも間に合わなかった。

またもや乱入。
攻撃が命中したのはハピナスではなく、スターミー。
団員の後ろにあるドアから部屋に飛び込んできて、そのまま攻撃の盾となったのだ。

スターミーの突然の出現と自信を以って放った攻撃を受け止められたことで、エルレイドは驚きのあまり全身の力が一瞬抜ける。
その隙にスターミーは"サイコショック"で反撃を加えてきた。
この状態から防御行動をとることは出来ず、エルレイドは至近距離から直撃を受ける。
被弾後、堪らず"テレポート"によって自陣のミロカロスの側へと戻った。


アクア団員「ミスティス!?」


スターミーが現れたことは、トレーナーである団員の方も驚いていた。
思わずスターミーの名前を呼び、呼ばれた方もそれに応える。


ミスティス(スターミー)「Asked!!」

アクア団員「そう、それなら安心してこっちに集中できるわ。
      あとで感謝しておかないとね。」


言葉こそ足りないが、彼女はスターミーが何を言いたいのかは分かる。
この話し方は昔から変わらない。
そしてこちら側に来た理由を聞いた彼女は納得し、気持ちも落ち着いた。

3vs3となり、数の上での有利不利は無くなった。
ユウキの方としては逆に面白くない状況の悪化だ。

彼としても4体目以降の追加投入は不可能。
身を滅ぼすことに繋がりかねない。
2vs3の状況でものらりくらりと攻撃をかわされていたことを鑑みるに、非常に厳しい戦いになることは容易に想像できる。
・・・彼女が3体に指示を出すことになり、自滅してくれるのなら別だが。

エルレイドが再び距離を置き、数の不利も無くなり状況が好転したところで団員の方は気を良くする。
今までの攻防は彼女にとっては綱渡りだった。
だがこうなれば、落ち着いて自分のペースを作ることに着手できるようになる。


アクア団員「メルセス、"瞑想"!」


ハピナスは精神を集中させる。
ただでさえ特殊防御力の高いハピナスが"瞑想"を行えば、特殊攻撃による撃破は不可能ともいえる。
それ以上に特殊攻撃力が上がることが厄介であり、ユウキは攻撃にも注意を払わなければならなくなる。

加えて場所が場所だけに、またゲンガーがどこからか現れて攻撃してくる恐れもある。

このようなステータス上昇を無効化出来る手があるならば、そこまで苦労はしない。
そして実際に全く打つ手がない訳でもない。
だがその手を使えるのがエルレイドだけと言うのが問題だった。

今までの団員の行動を見るに、これ以上の手持ちはいないため"吠える"などの強制交換技は意味が無い。
他の個体はともかく、ユウキのミロカロスは"黒い霧"を使えないタイプの成長を遂げてしまった。
"毒々"などで状態異常にし、間接的に交換させる手もハピナスの"癒しの鈴"で無効にされる。

かといって無視するわけにもいかないのが実情。
これでは行動が間接的に阻害される。


ユウキ「白麗、今日は慣れないことばかりさせて悪いが、お前は守りに回ってくれ。」

白麗(エルレイド)「やるけど、その内になんとかしてよね。」

ユウキ「ああ、むしろしないとキッツイな。」


エルレイドはすぐさまハピナスを"挑発"する。
これ以上、要塞とされるのは避けたいがためだ。

ハピナスは"挑発"に乗り、"火炎放射"をエルレイドへと向けてくる。
今は頭に支援の文字は無い。


ユウキ「流霆は取り敢えず"充電"して備えてろ!
    玲瓏、お前はキュウコンを踊らせろ!!」


"炎の渦"の中にいる上、敵陣のド真ん中にいるライボルトの生存率を少しでも上げるため、そして1体でも自己強化をさせないための行動に。

後衛vs後衛となるエルレイドvsハピナスの攻防。

既にユウキ側の神秘のベールはなくなっていた。
火傷を負った場合の回復手段に乏しいため、エルレイドに再び"神秘の護り"を使わせる。

そしてハピナスの攻撃をかいくぐり、こちらから攻撃を加えるために初めて前へ出るミロカロス。
仮に"火炎放射"の中へ逃げ込まれても、威力と技同士の相性の関係上、追撃できる"ハイドロポンプ"を放つ。
だが攻撃に対してまたもスターミーが盾として割り込んで来る。


ユウキ「(スターミーの行動を優先的に止めないと勝ち目はない・・・か。)
    玲瓏、気にせずキュウコン狙いで攻撃を続けろ!」


キュウコンはスターミーが盾になっているとはいえ、ミロカロスの攻撃を前にして下手に動くことができない。
後方にしか逃げ場が無く、徐々に後退していく。
スターミーもそれに合わせる。


ユウキ「(よし、そろそろだな。)
    流霆、"10万ボルト"の用意だ!」


"炎の渦"が消える瞬間を読んでの攻撃準備の指示。
だが準備は済ませても、発散させるタイミングを逃せば逆に体力を消耗させることになる。
そして"炎の渦"がどれだけ持続するかは使用した側でも分からないのだ。
団員の方からすれば、ユウキが賭けをしてきたようにも見えた。

けれど彼の読みは正しかった。
"10万ボルト"が放てる状態になると同時に"炎の渦"の拘束は解かれる。

狙いはキュウコンの盾となっているスターミー。
そして両者ともに既に放たれた攻撃を迎撃することも、守ることも出来ない。
出来るのはギリギリ間に合うか間に合わないかといった瞬時の回避行動のみ。

だが、もしも攻撃を避ければ、"ハイドロポンプ"がキュウコンを襲うことになる。
避けなければスターミーの戦線離脱は固く、最悪の場合は両者共倒れだ。
ここがトレーナーの腕の見せ所、団員のとった行動は。


アクア団員「"高速スピン"に"電光石火"!」


スターミーはその場で回転を開始する。
そしてあろうことか、キュウコンは目の前にいるスターミーへと攻撃した。

"電光石火"は威力は低いが、攻撃に移るまでに殆ど時間がかからない攻撃。
ライボルトの攻撃が命中するよりも速く、スターミーへと繰り出される。

"高速スピン"するために中空に浮いていたスターミーはキュウコンに押し出される形で"ハイドロポンプ"の中へ。
床に対して水平な体勢になっており、スターミー身体の構造上水の抵抗を受けにくい状態。
かつ身体が回転している為に水を受け流す形となり、"ハイドロポンプ"の中を突っ切って行く。

代わりに今までスターミーが居た位置にキュウコンが入ることになり、ライボルトの攻撃を受ける。
スターミーが攻撃を受けるのとは違って効果は抜群と言う訳ではないが、それでも"充電"した後の電気技は辛い。

そして"ハイドロポンプ"へと突っ込んだスターミーは再び体勢を戻し、盾となる。
これでミロカロス側からの攻撃も発散されてキュウコンへの被弾は最小限に。
両攻撃によるダメージを合わせてもなんとか踏みとどまるに至った。

だが戦闘不能こそ回避できたが、両者ともに今にも倒れかねないような状態。

相手も悪く、今の攻撃を凌がれたことで驚き、攻撃の手を止めてくれない。
ユウキは取り乱すことなく、次の行動を指示していた。


ユウキ「キュウコンに追撃の"電撃波"!」
アクア団員「(間に合って・・・!!)
      "痛み分け"!!」


"痛み分け"によりキュウコンの体力を一時的に回復しようとする団員。
しかしユウキの方が先に指示を出し終えたことに加え、指示された技は攻撃までにかかる時間が比較的短く、弾速が速い"電撃波"。
さらに"痛み分け"の効果範囲から外れていたため、接近する時間も必要だった。

結局、願い叶わずに"痛み分け"の射程内に入る前に高速で飛んでくる"電撃波"を喰らってキュウコンは戦闘不能に。

これでスターミーはミロカロスの"ハイドロポンプ"を受け続ける必要が無くなった。
直後に来る可能性のあるライボルトの攻撃に備えて"自己再生"しながらハピナスの側へ後退する。

逆にユウキの方はキュウコンが倒れたことで有利な戦況に。
攻撃し続ける必要が無くなったためにミロカロスの攻撃をやめさせる。
今は守りに回っているエルレイドとライボルトで一気に畳み掛け、ミロカロスに自分自身の援護をさせることで決着を付けるつもりだった。

だが彼のタクトは、団員の突然の行動によって止まる。


アクア団員「カルメナ、すぐに助けるわ!」


彼女がハピナスの側を通り、戦闘不能となり倒れているキュウコンのもとへ駆け抜けてくる。
その右手には"げんきのかたまり"。

通常、この道具を使う場合は、一度ボールに戻すなどして手元に使うポケモンを喚び寄せる。
その間は戦況を追うことができないため、必然的に相手は自由に動けることになる。
今の団員のようにすればその限りではないが、安全上の問題により公式大会のルールなどでは禁止されている。

だがこれはルールなき戦い。
トレーナーすら傷付けることもある一方で、逆にこのように身を挺して自分のポケモンを助けることだってできる。
しかしこういった戦いは初めての経験であるユウキには思ってもみない行動だった。
彼は思わず団員を呼び止める。


ユウキ「おい! 危ねぇぞ!!」


先程、彼女自身がそうしたように、ユウキもトレーナーへ攻撃を加えればこれを止めることができた。
だが彼にはそれができなかった。
突然のことで覚悟ができていなかったのだ。

団員の方もこのことを計算に入れていた訳ではない。
ただキュウコンをすぐに戦線復帰させたいがために体が動いてしまっただけのこと。
彼女はキュウコンが立ち上がると、すぐに今まで指示を出していた場所へと戻る。


アクア団員「あんな避け方をさせられるなんて・・・。
      自分でするのは初めてだったけれど、なんとか窮地は脱せたかな。」

ユウキ「(マズイな、あいつの行動をみすみす許しちまったばかりに・・・こりゃヤバイぞ。)」


彼は最低でも1匹は倒せると踏んだ行動だった。
だが結果的には倒しきれないどころか、キュウコンは全快。
さらに攻勢に出れる時間は終わりを迎えてしまう。


ユウキ「白麗! 玲瓏の後ろに"テレポート"して"眠る"んだ!!」


エルレイドは蓄積ダメージもあり、これ以上はハピナスの攻撃には耐えられない。
この戦いをものにするためには不可欠な戦力であるため、"眠る"ことで体力を回復させるよう指示する。
それは同時にハピナスに対して"挑発"し直すのを放棄したということ。

程無くして"挑発"の効力は無くなり、ハピナスは攻撃を止めた。
鬼の居ぬ間の洗濯と言わんばかりに団員は早速行動に出る。


アクア団員「ミスティスは"コスモパワー"!
      メルセスとカルメナは"瞑想"!!」


彼女は防御を固める手を取った。

ユウキの方も黙ってこの行動を見過ごすわけにはいかない。
敵陣のすぐ側におり、機動力のあるライボルトに攻撃を指示させていた。
宙へと跳んで狙うは相性の関係上、最も潰しやすいスターミー。

上からの攻撃ということで戦闘開始直後にキュウコンがそうしたようにハピナスを盾として攻撃をやり過ごすことは出来ない。
スターミーは"コスモパワー"の動作中ということで"10万ボルト"の直撃を受ける。
蓄積ダメージと併せて戦闘不能になるものだとユウキは思っていた。
が、スターミーはこれに耐えきってみせた。


アクア団員「残念、この子はこっちに来る前にも"コスモパワー"を使っているの。
      まだ倒れたりはしないわ。」

ユウキ「なら2発でも3発でも撃てばいいだけだ! "電撃波"!!」


先程のように"電撃波"ですぐに追撃するライボルト。
だが攻撃が繰り出される寸前で今度はキュウコンがスターミーの盾になった。
追撃を警戒されていたのに加えて、今回の攻撃が放たれた高度が低かったこと、そしてキュウコンの機動力があって間に合った防御。
スターミーはキュウコンに守られてすぐに"自己再生"を始める。

どうにかしようにも、ユウキにとっては厄介なことに団員は"勝ちを狙っていない"。
勝ちを狙ってくるならばキュウコンに反撃させてくる際に再び攻撃を入れるチャンスが生まれる可能性もあった。
しかしキュウコンはライボルトのマークに徹しており、その気配すら見られない。

その間にもハピナスは"瞑想"を続け、スターミーも再び"コスモパワー"を享受し始める。

急所を上手く突けなければ、もう1匹たりとも倒すことは出来ないような状況になってきていた。
ハピナス、キュウコンの"瞑想"による特殊防御力の上昇を意に介さないエルレイドの目が覚めても、スターミーが盾になれば意味は無い。
それは3体が密集していることもあり簡単に許すことになるだろう。

気付けば団員の防御の陣は完成していたのだ。
ユウキにしてみれば打つ手が無いような状態。
ミロカロスを前進させても牽制を繰り返すだけしかできぬまま時間は過ぎていく・・・・・・。



























ユウキ「(もう十分すぎる程に準備は整ったか。)」


これまでの攻防での疲労の溜まり具合は団員側の方が大きかった。
確かに守り切るには十分な防御力は得ていた。
だが行動が遅れて防御の陣が崩れれば敗北に繋がるために相手の動きを警戒し、精神を集中させていなければならなかった。
"凍える風"を織り交ぜた牽制のせいで、スターミーとキュウコンの位置を慎重かつ微妙に調整し直す必要もあったために消耗度はさらに高められていた。
逆に攻撃するユウキ側は、相手が攻撃に慎重なこともあって反撃をあまり気にすることなく気楽に攻撃していたために疲労の溜まりは行動の割には緩やかなものだった。

そして定期的にやって来るチャンスである、"神秘の護り"が切れる時になる。
ユウキはすぐにこの隙を狙うが、実は今までの攻防の中でこの隙を狙うのは初めてとなる。


ユウキ「玲瓏、今の内にハピナスに"催眠術"を!」

アクア団員「対状態異常用の陣形をとって!」


ユウキの指示を聞いた団員側もそれに合わせて指示を出す。
既に"神秘の護り"のかけ直しを行おうとしていたため、その発展形である指示内容への切り替えはすぐになされた。

ハピナスの前にスターミーが入り、代わりに催眠術にかかる。
しかし後方でハピナスが"癒しの鈴"の音を響かせ、さらにキュウコンが"神秘の護り"をかけ直すことにより状態異常を事実上、無効にする。


ユウキ「白麗、上に!」


3体の足が止まっているこの瞬間を狙って、再びエルレイドを"テレポート"させる。

今度の出現場所はハピナスのやや後方の天井近く。
キュウコンがハピナスの後ろにおり、背後を取れないために上へのテレポートが指示されたのだ。
だが理由はそれだけではなく、上から攻撃を仕掛けることにより早い段階なら攻撃対象の変更が可能であり、周囲の状況の把握が簡単にできる。
さらに落下の勢いの分、攻撃の威力も増すことになる。

しかし落下中の動きはジャンプにより宙へ出たものではないため、ただの自由落下。
迂闊にも格好の的となってしまっていた。


アクア団員「ミスティス、"ハイドロポンプ"で迎撃して!」


キュウコンが迎撃しきれずにエルレイドが攻撃を耐えきり突っ切ってきた場合、回避動作を取れるはずもなく再び戦闘不能となってしまう。
加えて、炎技と違ってスターミーの水技が直撃すれば、その水圧で壁へ激突させることで大ダメージを与えられると団員は判断した。

スターミーは素早いために、目の前にいるミロカロスを巻いてからの攻撃が可能。
素早く移動できる割に安全、かつちょっと移動するだけですぐにハピナスの盾となれる、現在位置のほぼ真上からエルレイドを狙う。

そして放たれた攻撃は無事、正確な位置へと発射された。
仮に外れた場合でもキュウコンの回避は間に合うので問題は無かったが、それでもチャンスを逃すのはやはり辛い。

・・・・・・が、本当にチャンスをモノにできたのはユウキの方だった。


ユウキ「かかったな! "瓏氷白断墜れいひょうはくだんつい"!!」


攻撃が命中する直前でエルレイドは再度"テレポート"していた。

エルレイドは相手の考えを敏感にキャッチする能力を持つ。
"未来予知"の指示を受けた時のように、ユウキの考えをキャッチした時点で最初からこの攻撃を読んでいたからこそ間に合った行動。

そして一歩遅れて"ハイドロポンプ"へ向けてミロカロスが"冷凍ビーム"を放つ。

キュウコンやハピナスに炎技を抑制させ、逆に"凍える風"を積極的に放つことで部屋の気温を下げるよう動いていた。
それにより通常よりも僅かながら速く凍りつく。

だがこの氷は元々エルレイドへの攻撃が外れた"ハイドロポンプ"が凍ったものであるため、その先にあった壁ごと凍っておりただの巨大な氷柱にすぎない。
最後に再び天井近くへ"テレポート"していたエルレイドが"サイコカッター"で氷柱を切断することで攻撃は完成。
音もなく巨大な氷柱がハピナスの頭上目掛けて落下を始める。

如何に"瞑想"をして特殊防御力に更なる磨きをかけたハピナスと言えど、大質量の氷による物理攻撃を受けてはひとたまりもない。
それは仮に"コスモパワー"を得ているスターミーが盾となって割って入った場合も同じ。
下手をすれば共倒れだ。

鈍足の上に、"凍える風"を受けて機動力が落ちていたハピナスでは氷が落下してくるまでの間に落下点から抜け出すことは出来ない。


アクア団員「"フレアドライブ"!!」


この緊急事態に炎を纏ったキュウコンが氷柱のハピナスの頭上にあたる部分に身体全体でぶつかる。
その箇所では一時的に氷柱の落下が止まり、それで稼いだ時間もあって、ハピナスの上に堕ちるまでにキュウコンの熱により溶けて水となる。

ハピナスの方はほぼ無傷に終わったが、キュウコンは事実上"ハイドロポンプ"をその身に受ける形となった。
勿論、"ハイドロポンプ"の直撃を受けるのとは水圧やら、溶かしたした氷が全体の一部分ということで水量の違いなどがあり、特殊防御力の高いキュウコンということもあって耐えることは出来た。
それでも氷柱に激突した時の分と併せて大きなダメージを受けたことには変わりない。

一番は精神的なダメージだ。
予期せぬ、それも派手なカウンターを喰らってしまったことで攻撃に怖れを覚えてしまう。
かといって防戦一方で逃げられるのも相手が相手だけに崩されるのも時間の問題。

戦慄している彼女は、ユウキが言葉をかけてきたのにもビクつきながら反応した。


ユウキ「なるほど、もうあのゲンガーの影に怯える必要はない訳だ。」

アクア団員「・・・・・・何を言っているの。」

ユウキ「もしゲンガーをどこかに潜ませているならば、今の致命的に成り得る攻撃をいずれかの段階で止められていたはず。
    防がなければ深手を負うことは分かっていただろうし、その慌て様を見てもな。」


ユウキにはさっきの彼女の言葉が虚勢だということは分かっていた。
そんなものはその震える様子を見ればすぐに分かる。


アクア団員「(あれから1時間は経ったし時間は十分、それにこれ以上は・・・・・・。)
      カルメナ、ミスティス、"妖しい光"!」


指示を受けてスターミーとキュウコンは"妖しい光"を発する。
不意を突かれたユウキ側は、成す術なく混乱に陥る。
狙われたのは"テレポート"による追跡能力があるエルレイドと素早いライボルト。

この隙に団員は急いでハピナスとキュウコンをボールに戻し、背後の扉へ向かって駆け出した。
スターミーもその後を追って飛んでいく。


ユウキ「チッ、逃げられたか。」


水中ならいざ知らず、地上のこの場所ではミロカロスが追うことは不可能。
かといって自身が追うにもスタートの差に加えて距離がありすぎる。
ボールからジュカインを出して追わせるのはそれに加えて、ボールから出るまでの時間がかかり間に合わない。

団員の戦い方が防戦一方だったこともあり、なにかしらの逃走手段はあるものだと予想していたユウキは追跡を諦めたのだった。

戦闘が終わった以上、混乱している2匹を放っておく訳にもいかず、ユウキは自分のポケモンたちをボールに戻す。
ボールに戻し終えると彼は一息ついた。
長い戦いが終わり、ようやく精神が休まる瞬間だ。

最後に部屋の隅で拘束されている者達を解放すれば仕上げとなる。
彼がそちらへ向かおうと思った時に、先程団員が出て行った扉から男が部屋へと入って来た。

見る限り、彼女らと同じアクア団員ではなさそうだ。


ユウキ「"先客"か?」

スーツの男「あんたこそ"来客"か?」





第2幕アナザーストーリー ユウキ編
神童、故郷へ
〜Riddles in Hoen〜




Partner's Date
ユウキ
Pokemon
ジュカイン(NN:常葉)
オオスバメ(NN:飛燕)
ミロカロス(NN:玲瓏)
エルレイド(NN:白麗)
ライボルト(NN:流霆)
  ?  (NN:呼冥)



<あとがき>
まさかこんなに長くなるとは・・・約1時間分の攻防を端折らなければ危険だった((
2話に分けたくなかったんですが、かといって既に40KB相当の文字数を更に増やすことになるのも困りもの。

今回の話では、この作品におけるバトルというものを前面に押し出したつもりです。
ゲーム内で交代に1ターンを費やすのをどう表現するか。
そして3対3と一見トリプルバトルのようにも見えますが、あれは端から端への攻撃不可との制約などがあり、
トレーナーの技量的に自由に指示を出せないゆえに行動制限か何かがかけられていると解釈してみたり。
よって今回のものは別扱いのつもりです。

あと戦闘の1/3〜1/4はBW発売前に書いていたのですが、特に大きな変更が無かったこともあり一安心でした((