TOP>第1幕 動乱萌芽>ユウキ編 第2楽章 奔走!


女性職員「『急用でホウエンに戻ることになったんですが、情勢を詳しく教えて貰いたいのです。
       連絡はフロンティアの方ではなくポケナビの方へお願いします。』
       とのことです。」

ジンダイ「そうか、詳しくか‥‥‥それではヒースとウコン殿を除いた各ブレーンに召集令を出しておいてくれ。
      よろしく頼むぞ。」


ユウキからの言伝を聞き、それを受けて指示を出した彼は受話器を置いた。
そしてどういう訳かテンションが上がった彼は、大声で宣言する。
なお、部屋にいるのは彼のみである。


ジンダイ「折角戻って来るんだから、期待に応えてあげなければな!!」


このおっさん、何かを勘違いしてしまったらしい。


ユウキ編 第2楽章 奔走!



赤キャップ兄貴「ったく、ありえねぇだろがおっさんヨォ・・・・・・。」


ジンダイからの命でカナズミシティへ向かわされた彼はムシャクシャしていた。
一応、その命を受けた時点で「それはおかしいだろ」と異を唱えることも出来たのだが、彼の好奇心がその言葉を妨げた。
事件のあった現地を自分の眼で見れるのは彼にとっても美味しい話ではあったためにその場では何も言わなかったのだ。

が、船を乗り継ぐなどの移動で疲労が溜まったこともあって、この命を受け入れたことを後悔していた。
そしてそれは「ありえない勘違い」をしたジンダイへの不満へと転化されていた。

彼は最も血気盛んなブレーンである、ファクトリーヘッドのダツラ。


ダツラ「ま、ここでの休暇で我慢してやるとすっか。」


常に最新情報を仕入れるという大義名分のもと、ここカナズミにしばらく滞在することになる。
早々新しい情報も入ってこないだろうし、暇な時間が殆どだろうと彼は踏んでいた。
そこでその間、今回の費用が全額公費なのをいいことに豪勢に羽を伸ばそうと密かに計画していたのだ。

そのためには色々と文句を言われる前にさっさと最低限の仕事は終わらせる。
そうすれば余計に連絡を受けることなく、邪魔されることが無くなるのでのんびりと出来るという訳だ。

そうと決まれば早速デボンカンパニー本社へと向かうことにする。
彼はタクシーを捕まえ港から街の中心部へと向かった。


ダツラ「(しっかしまあデカイ街だこと。)」


これでは地図もイマイチ役に立ちそうにないとダツラに思わせるほど大きな街。
それでもタクシーを拾ったことで目的地には問題なく辿り着くことは出来るため、その点では正解だった。

しかし街の大きさの割には人通りが少ない。
事件から6日が経った現在でもその影響が出ているようだ。
ダツラにとっては休暇の間は人が少ない方が都合はいいのだが・・・・・・。

街の中心部から少し離れた辺りにデボンカンパニー本社ビルはあった。
ビルはレンガ造りの塀で囲まれた広い敷地内に建てられている。
外観からは補修工事を行っている訳でも、行われた形跡もなく、爆破事件など無かったかのように見えた。

彼はまずビルに入ってすぐの受付へと向かう。
サーバの復旧状況を確かめるためにダツラが来ることは、デボン社には予め伝えられていた。


ダツラ「どーも、バトルフロンティアから来たモンです。」

受付嬢「ご到着、お待ちしておりました。
    身分を証明出来るものはお持ちでしょうか?」

ダツラ「はいよ。」


ダツラは自分のトレーナーカードを差し出す。
受付嬢はそれを機械に通すなどして入念に調べた後、ダツラに返却した。


受付嬢「確かにフロンティアブレーンのダツラ様であることを確認致しました。
    案内の者をよこしますので、しばらくお待ち下さい。」


そして5分ほど経ってやって来たのは30代後半と思われる男性社員。
彼は一礼しダツラに自分について来るよう言うと、役員用エレベーターに案内した。
エレベーターで向かったのは地下。
デボンカンパニー本社ビルに地下が存在することは知られておらず、それはダツラでも例外ではなかった。

エレベーターの扉が開き、降りた先には金属製の扉が。
扉は側面の壁に備え付けられた機器にパスワードを入力することで開くものだ。


デボン社員「この先には同じ扉がいくつもあります。
       決して、はぐれることのない様お願い致します。」

ダツラ「おう・・・。」


さしものダツラも人気が無く、殺風景な通路の様相に圧倒されていた。
唯一視界に変化をもたらすものは天井に備え付けられた監視カメラのみであり、それがさらに圧迫感を与える。

しばらく進むと壁の側面にも扉が現れ始めた。
こちらはどうも部屋のようだが、その悉くを通り過ぎていく。
そして時折、通路が分岐している場所があり、どの通路を選ぶにも扉を開かなければ進めない造りとなっている。

まるで巨大な地下迷宮ともいえるデボン本社ビルの地下。

いくつもの分岐箇所を通り、ある部屋の扉の前で止まる。
扉の種類は通路を塞いでいた今までのものと同じ、パスワード入力で開くタイプだ。
社員のパスワード入力によって開き、ようやく案内されたその部屋には大型のコンピュータ群。
サーバルームだ。


ダツラ「もう修復は終わってるんだな。」


ダツラは部屋の様子を見て、部屋を案内をした社員にそう話しかけた。
だが社員は首を横に振った。


デボン社員「いいえ、この部屋はフェイクの1つです。」

ダツラ「フェイク!?」

デボン社員「流石に実際に使用しているサーバのある部屋へ案内する訳には参りません。」

ダツラ「それならエレベーターに近い部屋でも良かったじゃねぇか。
    どうしてこんな回りくどい場所にしたんだよ。」

デボン社員「いかにフェイクといえど、部屋の場所を特定される訳にはいきませんでした。
       客人である貴方にこのような措置を取った無礼をお許し下さい。」

ダツラ「危機管理の都合上、仕方ねぇのは分かってる。
    逆に客である俺に対しても厳しい姿勢を取ったことを、俺は評価するね。
    でも最初からこんだけすげぇセキュリティにしとけば良かったのにな。」

デボン社員「いえ、事件発生以前もこれと同等のセキュリティがなされていました。」

ダツラ「それでもやられたのか。」

デボン社員「恥ずかしながら、ピンポイントに本物の部屋だけをやられてしまいました。」

ダツラ「それは本当にマグマ団の仕業だったのか?」


これだけ厳重に管理されていれば疑問に思うのも当然というの。
特に本物のメインサーバをピンポイントで狙われたとなればなおさらだ。

まず各場所の扉を開くパスワードを知っていることが根底に無ければならない。
仮に扉ごとのパスワードを解析、もしくはシステムに干渉して強引に開く手段を取ったとすれば時間を要する。
その間に監視カメラで姿を発見した社員がやって来て終わりだ。
カメラを次々に壊そうものならば、数台壊した所でカメラの不具合で無いことをいずれ悟られて同じ結末を迎えよう。

さらに数々の偽装部屋。
このことを知らなければ偽の部屋を爆破しただけで終わってしまうだろう。
そして偽装部屋のことを知っていたとしても本物のサーバルームと見分けなければならない。
どの偽装部屋もこの部屋と同じ様なものであれば見分けることは容易ではない。

だがマグマ団の犯行であるという証拠の存在。
これは揺るがない事実であった。


デボン社員「このフロアの監視カメラに残された映像に、あの赤の衣装を纏ったマグマ団員と思しき者が。
      それがマグマ団が今回の事件を引き起こしたとの証拠の1つとなりました。」

ダツラ「『残された』だと? 普通はリアルタイムで監視するもんだろうが。」

デボン社員「事件前後、監視室の機器が正常に動作しないトラブルが発生していたせいです。
       当時、全ての機器に異常があったことで配線関係のトラブルかと思われていました。
       しかし原因はかつて煙突山にてマグマ団の使用した隕石を用いる装置に類似した小型の機械によるもの。
       小型軽量ながら隕鉄を利用し強力な磁気を発生させるこの装置で機器の異常動作を引き起こしていたのです。」

ダツラ「それがマグマ団による犯行と断定された最たる理由と。
    だがそれだけじゃあセキュリティをすり抜けて事件を起こせたことの説明がつかねぇ。」

デボン社員「我々もそれには頭を悩ませているのです。
       この地下の全てを知るのは社内でも私を含めた数名のみ、情報漏洩にも細心の注意を払っています。」

ダツラ「それでも実際にやられたっつうことは、どっかから漏洩したってこったろ。
    ま、こんなこと考えてても仕方がねぇ、この話題はやめだ。
    それよりもネットワークの復旧までにはどれくらいの時間がかかるか、こっちの方が重要だ。」

デボン社員「はあ・・・現在、フェイクの部屋の内1つを造り替えてサーバルームへと改修しています。
       作業の終了まではそう時間はかかりませんが、稼働テストなどを含めるとあと1週間はかかるかと。」

ダツラ「すまねぇな、このことはフロンティアの方にも伝えとくぜ。
    (1週間か・・・それなりにゆっくり出来そうだな。)」


























爆破事件を起こしたマグマ団がそれ以前で最後におおっぴらに活動をした煙突山へ向かったブレーンがいた。
この辺りの情勢に変化があったかもしれないとのジンダイの考えから遣わされたのはアリーナキャプテンのコゴミ。
無事に現地に到着したはいいが・・・・・・。


コゴミ「やっぱりなーんもないじゃーん!!」


やはり一時の事件だったということか、地元のトレーナーと観光客くらいしかいない。
一応辺りの散策はしてみたものの目ぼしいものは何もない。
そのため彼女のやる気は既に無くなっていた。


コゴミ「あーもう、やめやめっ!
    こんなことしてて温泉に入らないなんてどうかしてるっ!!」


迷うことなくあっさりと下山して麓にある温泉で有名な街、フエンタウンへ。
結局の所、誰しも考えることは同じ様だ。
・・・・・・ただし戦果はなし。


























一方で2日間情報収集に励んでも特に戦果が無かったがため、早々に帰路に就いたブレーンもいた。
ミナモシティに向かったタワータイクーンのリラである。

事件後、ミナモシティの街にいるアクア団の様子に変化があったのかを調べる為に遣わされたのだが、
現地の住人に訊いた所、事件前後で多少団員の姿は減ったようだが特に変化はなかったとのこと。
多くの者に聞き込みを行うもそれ以上の収穫は得られなかった。

しかし帰路に就くとは言っても現在バトルフロンティアは営業を停止している為に通常運航の船は無い。
そのため、現地の船乗りに頼んで特別に小さな船を出して貰ったのだった。

小さな船ゆえに船室などは無く、特にやることもない彼女は船のデッキでぼんやりと海を眺めていた。
雲ひとつなく、陽光が容赦なく照りつけるとても暑い昼下がり。
それでも海風のお陰でわりかし暑さは凌げてはいる。

ある時、彼女はのんびりと眺めていた地平線に異常な物を見つける。
それは空に浮かぶ真っ赤な太陽。
天に煌めき、西に沈んでいく太陽とは別物であり、2つの太陽が存在している状態だ。

その太陽はルネシティの方に向かって少しずつ移動していた。
当然、この太陽が気にならないはずが無い。


リラ「(ルネシティに行ってみよう・・・・・・。)
   船長さん、行き先をヤック島に変更して下さい・・・・・・。」

船乗り「やっぱりアレが気になるんだな?」

リラ「はい・・・。」


こうして予定を変更し、急遽ルネシティへ向かうことに。

火山島ではないのだが、カルデラ状の地形を持つヤック島。
そのカルデラ湖にあたる部分につくられた街がルネシティだ。
それゆえ外輪山にあたる地形も存在するため船で街の中に乗り入れることは出来ない。

そのため船は座礁の危険性もあるため、ヤック島の近くまで来ることしか出来ない。


リラ「ここまで・・・ありがとうございます。」

船乗り「おう! そんじゃ、気を付けて頑張れよ。」


リラはカビゴンをボールから出すと"波乗り"をして貰う。
船とはそこで別れ、ヤック島の外輪山に上陸。
そのままカビゴンに"ロッククライム"して貰い、ルネの街へ。

真っ赤な太陽のことに多くの者が気付いているらしく、街は騒然としていた。
その中でリラの目を惹いたのが、この地の歴史の中心地と云われる"目覚めの祠"の周囲で慌ただしく動き回る者たちの様子だ。
彼女はこっそりと近付き、彼らの話を盗み聞きする。


男の声「・・・れは伝承・・・に匹敵す・・・・・・」

老人の声「・・・こら・・・るジラ・・・・・・はたら・・・」

男の声「・・・・・・に抑止・・・に秩・・・らす・・・しょうか」

老人の声「・・・・・・を消し・・・」


やはり距離が離れているために所々聞こえない部分がある。
しかし話の内容があまり良いとは言えないことは、険しい表情からもなんとなく伝わって来た。

リラは取り敢えずこのことをフロンティアの方に伝え、ルネシティでしばらく様子を見ることに決めた。


























鋭い目つきのアネキ「・・・どうしてあたしがこんなことを・・・・・・。」


適当な役員にでもやらせておけばいい仕事ではないかと思っていた。
むしろユウキは他のブレーンとポケナビで連絡が取れるのだから直接連絡を取り合うようにさせればいいのではないかと思っていた。
彼女は自分の任された仕事に対してのフラストレーションが溜まっていた。

各地に飛んだ3人から伝えられるの情報をまとめ、ユウキに伝える役目を与えられたチューブクイーンのアザミ。
だがその役目だからこそ他にも副責任者としての仕事がある彼女は不満を募らせていた。
その理由は先述の通りだ。


アザミ「(気晴らしに・・・ヒースでもいたぶってやるか・・・・・・。)」


そんなことを考えながら窓の外を眺める。
バトルタワー内にある彼女の執務室は上階の東向きの部屋のため、何も遮るものなく大海原を望める。


アザミ「(・・・・・・なんだ?)」


彼女もまた、リラと同じ様に異様な物を見つけた。
それは海上に天高くそびえる巨大な塔。

ルネシティに場所を移したリラからの連絡が入ったのはそれからしばらく後だった。





>>To be continued!!

<次回予告>
ホウエンに到着したユウキは用件を伝えられるとすぐに発つことに。
そして待ち受けるは邂逅、巻き込まれるは謀略。
喜ぶオダマキ、キレるユウキ、果たして・・・・・・。
※なお、この次回予告には多少の嘘が含まれています

<あとがき>
デボン本社は天神周辺にあるイメージで書いた。(by HOEN人)

今回はダツラ編でやる気を使い果たしたために残りは手抜きに近いです((
そのこともあって元々2話に分ける予定だった話を今回の1話にまとめてしまいました。

ちなみに真っ赤な太陽が云々ってのはルビー版での表現を基にしたもののため、持っていない人には分からなかったかも。
まあかくいう自分もルビー版は持ってないんですけどね((

あとルネシティのある島の名前については・・・・・・勿論、分かりますよね?(ぁ