TOP>第1幕 動乱萌芽>ユウキ編 第1楽章 振り回されて


この国の領土でも最北に位置する地のひとつであるファイトエリア。

その中で一際高い巨大なビル、"バトルタワー"の周りに多くのトレーナーが集っていた。
建設途中の建物ばかりが並び立つ周囲の風景には、やや似つかわしくない人の多さである。

ここはプレオープンの段階にあるシンオウバトルフロンティア。


ユウキ編 第1楽章 振り回されて



大柄の中年男性「せめて一勝負! 頼む!!」

赤バンダナの青年「嫌です。」


窓際に立ち、これからバトルタワーに挑もうかという地上のトレーナー達を見下ろしていた青年。
大柄な男性の熱い挑戦を冷たくかわす。


赤バンダナの青年「てか、今週は俺がタイクーンなんですからとっととスカウトに行ってきて下さいよ。」

大柄の中年男性「1ヶ月はバトルが出来ないんだ。
           一勝負くらい、いいだろう。」

赤バンダナの青年「俺だってブレーン戦に備えて手持ちの体力を温存させておきたいんですよ!」


プレオープン期間中はバトルタワーのフロンティアブレーンである"タワータイクーン"を、完成後に各施設のブレーンとなる5人が週替わりで務めることになっている。
そしてタワータイクーンを担当しない他の4人は、次にタイクーンを務めるまでの1ヶ月間、シンオウ各地に散らばり、フロンティアに招待するに相応しい優秀なトレーナーを探して回ることになっている。


大柄の中年男性「ユウキくん、確かにブレーン戦の為にバトルを避けたいのはよ〜〜〜く分かる。
           だが逆にブレーン戦では使わない3匹で戦えばいいと思うのだ。」

ユウキと呼ばれた赤バンダナ「あー、もう、しつこいんですよ!!
                  スカウティング先でバトルでもなんでもすりゃあいいでしょう!!」

大柄の中年男性「そうか・・・・・・。」


男性は肩を落とす。

だが、まだ彼は諦めてスカウティングに出発するつもりはなかった。
作戦変更、今度はユウキにタワータイクーンの職務を放棄させようと企む。

というわけで彼は早速、話を切り替えた。


大柄の中年男性「ところで話は変わるが、なんでもホウエンで大事件があったそうじゃないか。
           君も地元というのもあって心配だろう? ホウエンに戻りたいだろう?
           私が代わりにタイクーンをもう1週務めるから心配しなくても良いぞ。」

ユウキ「気になってるなら、とっくの昔に帰ってます!」


その大事件とは所謂"Deep Red Flood"のことだ。
しかし起こったのは5日前であり、帰るにしては今更という感が強い。
そもそもカナズミという特に縁もない地で起こった事件で、別に誰か知り合いが巻き込まれたという訳でもないため、帰る必要性や、帰ろうという気持ちは微塵も無かった。

一応、ボックス管理ネットワークが止まった関係でホウエンバトルフロンティアが営業停止状態にはなっている。
が、それに関しても行ってどうこうするようなことではなく、大元の復旧を待つより他は無い。


大柄の中年男性「う〜む、それなら・・・・・・。」


それでも、まだまだ諦める事が出来ないといった様子の男性。
その様子を見て、まだ相手をしないといけないのかと辟易するユウキ。

そんな時、ユウキにとって救いの女神の声が。
タワータイクーンが使用するこの部屋にある固定電話が鳴ったのだ。

勝手に受話器を取ろうとした男性の手を左手で払い、右手で素早く受話器を取る。


フロンティア女性職員「ユウキさん、18連勝中の挑戦者がいるのでそろそろ準備をお願いします。」

ユウキ「はーい、分かりました。」


これからタワータイクーンとしての出番が回ってきそうだ。
出番さえ来れば、その週の担当が変わることはまずあり得ない。
という訳で既に係員がユウキに対して連絡をしてきたこともあり、男性の方は諦めざるを得ない。

落ち込む男性を尻目に、ユウキはブレーン戦に備えて準備を始める。


ユウキ「今回の3匹はどうするか・・・・・・。
    常葉[とこは]は決定として・・・呼冥[コミョウ]でも入れておくかな。」


彼は声や態度には出していなかったが、心の中では男性に対して勝利した余韻に浸っていた。

だが今度は自らを頓挫させる悪魔の声が。
またも部屋に響く固定電話の音。

挑戦者の20連勝が決まっていよいよ出番かと思いつつ、ユウキは受話器を取る。
ついに観念したのか、今度は男性からの妨害行為は無し。


ユウキ「はいはい、出番ですか?」

???「おお、ユウキくんか。」


電話は職員からのものではなく、外部からの転送電話。
その相手は久しく話をしていないオダマキ博士だった。


ユウキ「どうしたんですか?
    今忙しいので、また後でかけ直してもらえません?」

オダマキ「いや、君に一刻も早く戻ってきて欲しいんだ。」

ユウキ「というと?」

オダマキ「実は・・・」


後で電話をかけ直す訳にはいかない程のことだ。
ユウキは注意深く電話に耳を傾ける。


オダマキ「実はハルカが帰って来んのだ。
      2日前から雇った者に捜索させてはいるが、いまだにだ。」


そりゃあフィールドワークをしている者を探すには時間もかかるだろう。
というか、わざわざそのためだけに戻って来いとは酷い話である。

真面目に話を聞いていことを馬鹿だったと後悔するユウキ。
彼は"本業"のために、とっとと電話を切ることにする。


ユウキ「別に俺じゃ無くたって構わないでしょう。
    それじゃあ・・・・・・」

大柄の中年男性「直ちに向かいます、はい!!」


よりにもよってこのタイミングで乱入してきた。
諦めていたと思われていたが、これはチャンスだと言わんばかりにその機会を窺っていたようだ。

さらに不幸なことに電話の相手も悪かった。
しかも自分の娘を心配する親というシチュエーションも最悪だ。


オダマキ「よし、待っているからな!」

ユウキ「あ、いや、ちょ・・・」


男性はユウキが余計な口を挟まない様に、有無を言わさず電話を切った。
ユウキにとってはとんでもないことになってしまった。

当然これにはキレる。


ユウキ「ちょっとクロツグさん、何してくれてんの!?」

クロツグと呼ばれた中年男性「フッ、これで私の勝ちだな。」


ちょっとこの人なに言ってんの?と内心思いながら、腰を入れ、彼目掛けてミドルキックをかます。

クロツグは自分の右手から襲いかかって来た蹴りをもろに喰らい、バランスを崩して左手にあった机に倒れ込む。
彼は蹴りの直撃を受けて痛む右腰を無意識に押さえた。


クロツグ「い、いたい・・・・・・。」


しかし諸悪の根源に怒りをぶつけてもなおユウキの怒りは収まらない。
今度は左手に握り拳を作り、それを真下にある机に力一杯叩きつけた所で怒りは収まった。
そしてその格好のままに、静かに言葉を発した。

オダマキ博士はきっと今頃、自分が戻ってくることに喜んでいるだろう。
今更、さっきのはガキがした悪戯でしたとは心情を察するに気の毒でとても言えない。
もうこの状況を飲まねばならぬことを受け止めるしかなかったのだ。


ユウキ「こうなった以上はホウエンに戻るしかないですね・・・・・・不本意ですが。」


ユウキは皮肉を込めて最後の言葉を言った。
だが相手の方はそんなことを気にする様子はなく浮かれている。
先程の左ミドルで与えたダメージはどこへやらといった様子だ。


クロツグ「やはり私が残っていて正解だったな。」

ユウキ「・・・・・・なんですか、その勝ち誇ったような顔は。
    取り敢えず、この件は後でエニシダさんに報告しておきますから。」

クロツグ「なん・・・だと・・・?」


この一言が彼にとって本日一番のダメージ。

バトルフロンティアのオーナーであるエニシダという男。
彼が一度制裁を下せば、ブレーン達はそれに逆らうことなど出来ない。

そして相手がユウキというのがまたマズイ。
彼はエニシダが特に気に入っているトレーナーの1人だ。
当然、彼の報告に耳を貸さないはずはなく、確実にその事実関係を調べるであろう。

それを恐れたクロツグは態度を一転、ユウキに対して魂の土下座。


クロツグ「今までの悪ふざけは詫びるし、これからスカウティングにも行く!
      だから頼むよユウキくん!!」

ユウキ「言ったでしょう、もう遅いって。」

クロツグ「ぐっ・・・、私としたことが迂闊っ・・・!!」

ユウキ「(本当にこの人がシンオウフロンティアの最高責任者で大丈夫か・・・・・・?)」


クロツグはブレーン戦の準備をするために渋々部屋を出ていく。

どこか間違っている気がする・・・・・・。
この最初とは180°違ったクロツグのテンションに何か妙な気持ちになりながら、この様子を見ていたユウキ。
だが一連の件は彼の自業自得であり、この違和感を気にしない様に努めることにした。


ユウキ「さてと、俺も準備しないといけないか・・・・・・。」


そう呟くと、彼は受話器を手に取り電話をかける。
かけ先はこれから戻るホウエンの地にあるバトルフロンティア。


女性職員「こちらはホウエンバトルフロンティアです。」

ユウキ「シンオウバトルフロンティアのユウキです。
    お手数ですがジンダイさんに繋いで下さい。」

女性職員「ユウキ様、大変申し訳ありませんがジンダイ様は現在電話に出ることができません。
      もしよろしければ言伝をお預かりしますが・・・・・・。」

ユウキ「それじゃあお願いします。
    『急用でホウエンに戻ることになったんですが、情勢を詳しく教えて貰いたいのです。
    連絡はフロンティアの方ではなくポケナビの方へお願いします。』
    と伝えておいて下さい。」

女性職員「かしこまりました。
      他にご用件は?」

ユウキ「他には何もありません。
    それでは言伝の件、よろしく頼みますよ。」


そう言うと受話器を置いた。

相手のジンダイという男はホウエンバトルフロンティア現最高責任者だ。
今の状況もあって、なんやかんやで手が離せないのだろう。

そこまで情報を急ぐ必要もないため、
連絡は気長に待つことにして、ユウキは身支度を整え始めた。





Partner's Date
ユウキ
Pokemon
  ?  (NN:常葉)
  ?  (NN:呼冥)



>>To be continued!!

<次回予告>
何故かジンダイの計らいにより大掛かりになる情報収集。
受難の4人のフロンティアブレーンは無駄に色々ガンバル!
奔走するブレーン達、移動中のユウキ、果たして・・・・・・。
※なお、この次回予告には多少の嘘が含まれています

<あとがき>
今日もバトルフロンティアは平和です(マテ)
個人的にブレーンの殆ど面子からはフリーダムさを感じます。

なおユウキの場合、RSの衣装かEmの衣装かは衣装の大きな差から気候によって変えているという設定に。
今はシンオウにいる為(ホウエンでは暑そうな)RS衣装となっています。