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彼は、その時は知らなかった。

彼は、その時の自らの状況を嘆いた。

彼は、自らの浅はかさを悔いた。

けれど、いくら懺悔したところで何も変わりはしない。
今この時の、最善の手を尽くして前へと進む手段を模索することしか出来ないのだ・・・・・・。

119番道路。
雨は、止む気配を全く見せることなく降り続いている。


本編 第1楽章 白龍

<3日前>
ホウエン地方はミシロタウン。
そこに自分の研究所を構え、ポケモンの生息範囲に関する研究を主とする著名な博士がいた。
それがオダマキ博士だ。

そして今、オダマキ博士は忠実に命令を遂行し、かつ腕が立つ人物を欲していた。
・・・・・・腕が立つ人物が必要なのは数日前に起きた爆破事件以降、何が起こるか分からない状況だからだ。

考えた末に電話した先は・・・(株)民間軍事会社クローズ。
選んだのは傭兵だった。

幾つかあるこの手の会社の中でも、この会社はゲリラ戦や工作活動に優れ、かつ単独でも地味にそれらをこなせる者が多いためである。
前身はどこかの国家に対するレジスタンスだったとかいう噂もあったりするが、そんなことは知らないし、知りたくもない。

翌日、早速クローズから傭兵が派遣されてきた。
それが"タイト"と呼ばれる傭兵であった。


タイト「(株)民間軍事会社クローズより参りました、社員コードNo.1725 タイトです。」

オダマキ「ふむ、ところで君はどんなポケモンを使うのかね。」

タイト「普段は仕事の内容に合わせて、会社のポケモンを使っています。
    ですが、現在は周知の通りボックス管理ネットワークが断たれているために手持ちはありません。」


オダマキ博士はこのことを聞き、あることを思い出した
せっかくだ、あの特異な体質を持つハクリュー、"アース"を彼に押しつk・・・・・・もとい、託してみようと。


オダマキ「では、こいつを君に渡そう。」


オダマキ博士はそう言うなり、おもむろにモンスターボールを取り出してタイトに渡す。
早速タイトはモンスターボールからハクリュー・・・アースを出した。


タイト「(ハクリューか・・・人一人程度なら乗せて飛べる上に泳げるから移動能力は十分、
     火力にやや不安こそあれ、体は長いが細身故にそれなりの隠密性はあるか・・・・・・。)」

アース(ハクリュー)「んお? どうしたんだよ博士、ってかこいつ誰よ?」

タイト「アース、ようやく見つかったお前の新しいトレーナー、その名も"タイト"だ!!

アース(ハクリュー)「おお!! よろしくな!!


"アース"は元々は、何故か新人トレーナーに渡すはずのボールに紛れこんでいた1匹のミニリュウだった。
流石に初心者トレーナーには扱いが難しいミニリュウを渡す訳にはいかなかったので博士が面倒を見ることとなる。

しかしある時、博士は彼の成長段階にあたり違和感を覚えた。
その正体を確かめるために博士が知り合いに頼み、彼に身体検査を受けさせたことで、ある事実が発覚する。

これを機に一時期、オダマキ博士が過去に自分の元から旅立ったトレーナーに彼の世話を頼んでいた。
だが、そのトレーナーが旅をやめることになった際にオダマキ博士の元へと返され、以降は博士のもとで暮らすことに。

それゆえ今回は彼にとっては久々の遠出だ。
そうしたこともあり、アースは半ば興奮した様子でタイトへと挨拶をする。
が、そのタイトはなんだか苦い顔をしていた。


タイト「(・・・・・・大丈夫なのか、こいつは?)」

アース(ハクリュー)「つれない奴だな・・・・・・こいつとは気が合わなそうだ。」

タイト「博士、こいつは一体どこまで技が使えるんですか?」

オダマキ「LV50までに自力で覚えられる技、と言ったところだな。」

タイト「・・・・・・心許無いな。
    (会社から支給された技マシン・・・・・・せっかくだから使ってみるか。)」


タイトは技マシン13[冷凍ビーム]をアースに使った!・・・・・・が、技マシンは起動しない。


タイト「(欠損か? ならばこっちを使うか。)」


タイトは技マシン59[龍の波動]をアースに使った!・・・・・・が、技マシンは起動しない。

彼が会社のていたらくに心の中で悪態を突こうとしていたところに、オダマキ博士は告げた。


オダマキ「無駄だよ。
     こいつは、なぜか技マシンを受け付けない。
     特異体質と言ったところか。」


そう、このハクリュー、"アース"はレベルアップにより習得する基本技以外は一切習得の可能性がなく、
さらにはこれ以上の進化の可能性が無いことが、専門の研究者の検査によって判明していたのだ。

オダマキ博士はタイトにこのことを説明した。


タイト「・・・・・・博士、悪いがこいつ以外に戦力になるのはいないのですか?」

オダマキ「残念だが、他にはレベルの低いポケモンしかいない。
     それでは役不足だろう?」


タイトは考える・・・・・・が、野生のを捕まえたところで、わずか数日間の契約だ。
戦力となるまで育成をするにも割に合わない。
日数と、契約した傭兵が自分の身である点から考えてもそれほど戦力が必要とは思えない。


タイト「博士の言う通りですね。
    それではこいつを預からせて貰います。」

アース(ハクリュー)「そういうわけだ、よろしく頼むぜ。」


またもやタイトはスルーする。
正直、相手にしていたら面倒くさいことになりそうだと彼は思っていた。


タイト「それはそうと、どうして俺を雇ったのか、そろそろ仕事の内容を聞かせて頂きたい。」

オダマキ「君は会社から聞いていないのか。
     いや、なに、誰にでもできる仕事だ。
     私の娘がヒマワキシティ周辺でフィールドワークを行っている。
     娘を探し出し、ここミシロタウンへと連れ戻して貰いたい。
     そろそろ調査の報告をして貰いたいし・・・・・・なにより、こんな情勢だからな。」


本当に、誰にでもでき、戦力など必要のない仕事であった(移動に時間はかかるが)。
確かに現在のホウエンの情勢を考えれば危険でないこともないのだが・・・・・・。

しかし、会社としては内容の割に十分な報酬を得ることが出来る為にこの依頼を引き受けたとか。
社員1人の2ヶ月分に匹敵する額・・・・・・なんという親バカ。
そのため、依頼を受けた時点で近くにいたタイトがこのことを任されたのだが当の本人は納得がいかない。
・・・・・・仕事なのでそこら辺は割り切っている、というか割り切れるのが凄い。


タイト「頭が痛くなりそうだ・・・・・・・・・。」



























今に戻る。

119番道路。
雨は、止む気配を全く見せることなく降り続いている。


タイト「そろそろヒマワキか・・・・・・ようやく片道だな。
    (探す手間もあるが・・・まあ、こんな変わった髪型だし、すぐに見つかるだろう・・・・・・。)」

アース(ハクリュー)「おいおい、周辺だぜ?  ヒマワキシティにいるとは限らないんだぞ。」

タイト「大丈夫、分かってるさ。
    だが、近辺であればさほど関係ないだろう。」


・・・・・・とは言ったものの、相手はポケモンの生息範囲の調査をしている。
そのために気配を殺しているため、目に見えない範囲にいる場合は見つけることが難しい。
かといって、ヒマワキシティ周辺には雨林や高草が茂っている。
それにこの天候、ヒマワキの雨は止むことがないと言われる程だ。

一応、確実に見つける方法がないこともない。
それは、補給のためにヒマワキシティに戻る時だ。

タイトとアースで2箇所ある町への入り口を見張れば見つけることが出来る。
が、これでは時間がどれほどかかるか分からない上に、何より人手が足りない。
体力的にもかなり厳しいものがある。


タイト「(誰かここ最近目撃した者でもいればいいんだがな・・・・・・。)」


ヒマワキシティ周辺の119番道路、及び120番道路には多くのトレーナー達が己を鍛える場として利用している。
特に120番道路はテレビ局の取材も来る程の人気スポットである。
そのため、誰か目撃者がいてもおかしくはない。

しかし119番道路で出会ったトレーナーに訊いた範囲では最も新しい目撃情報でも1か月以上前。
そういったこともあり、タイトは120番道路側にいると踏んでいた。

一応、119番道路にいるのならヒマワキシティのすぐ近くにいると考えるのが妥当か。


タイト「(確か町のすぐ近くに研究施設があったハズ・・・・・・ダメもとで訊いてみるか。)」


彼らはウザったく勝負を仕掛けてくるトレーナーを千切っては投げながら、雨の中をひたすら歩き研究所へと辿り着いた。

その研究所とは、お天気研究所。
ここではホウエン地方のあらゆる場所の気象を観測することが出来る。
また、この研究所はトクサネシティの宇宙センターを除いて唯一の気象観測所である。
その宇宙センターもロケットの発射や気象衛星のテストとして限定的に気象観測を行っているため、実質ホウエン唯一と言ってもいいだろう。

そんなことはともかく、タイトは研究所へ入ろうとするも、警備員によって止められた。


警備員「現在研究所には入れないんです。
    すいませんがお引き取りください。」

タイト「ならば用件だけでも訊いて貰いたい、いいか?」

警備員「はぁ、まあ用件にもよりますが。」

タイト「なに、単なる人探しだ。
    こいつを最近見なかったか?」


そう言って、タイトは写真を見せる。
警備員の男は少しの間の後に告げた。


警備員「なぜ彼女を探しているのですか?」

タイト「(さて・・・)実は重要参考人として彼女を追っているんだ。
    もし、彼女の居場所を特定できれば然るべき手立てにより確保するつもりだ。
    一応ある程度の居場所の目星は付いていて、ここらにいることは確かだ。
    ・・・・・・実は匿ってたり、はないよな?」

警備員「そんな危ない奴を匿うはずがないでしょう。」

タイト「そういえば、どうしてここには入れないんだ?
    ここは一般人でも見学ができたハズだが・・・・・・。」

警備員「ちょっと設備の調子が悪いためにメンテナンスを行っておりまして、そのために関係者以外の出入りをお断りしているのです。」

タイト「そうか、邪魔したな。」


お天気研究所を後にして、タイトはヒマワキシティの方へと向かう。
橋を渡り・・・・・・、


タイト「・・・・・・気付いたか?」

アース(ハクリュー)「・・・・・・何にだよ?」

タイト「何故あの警備員は探す理由まで詮索した?
    ただ、見たか見ていないか答えればいいだけのことを。」

アース(ハクリュー)「それぐらい、ちょっと気になったりすることもあるだろ?」

タイト「確かにな。
    だが、それだけじゃない。ドア越しに全く動きを見せない不審な人物が見えた。」

アース(ハクリュー)「不審者? 関係者か何かじゃないのか?」

タイト「だから俺は、さぐりをいれてみた。するとどうだ、奴が突然動いた。
    やはりと言うべきか、こんな研究所にしては浮いた服装だったな。
    恐らく奴はどこかに仕掛けた盗聴器か何かでこれを聞いていたハズだ。
    それに警備員が立ち入れない理由として挙げたものだが、立ち入れない理由としては不十分だろう。」

アース(ハクリュー)「まさかその不審者ってのは、赤のフードをした奴や青いバンダナを巻いた奴だったか?」

タイト「御名答・・・青のバンダナにストライプのシャツをしていた。
    しかし、何故お前が?」

アース(ハクリュー)「アクア団・・・・・・。」

タイト「さあな、果たしてその通りかは定かではない。
    しかしアクア団か・・・・・・マグマ団のやつらがあんなことをしでかした以上、やつらの動きが活発化したとしてもおかしくはないな。」

アース(ハクリュー)「でももしハルカの奴がいたら危なくないか? 写真まで見せてたし・・・・・。」

タイト「いるな、恐らく。」

アース(ハクリュー)「分かっててなんであんなことをしたんだよ!!」

タイト「逆に言えば、もし居た場合最も監視の目が届く所に置く可能性が高いということだ。
    居場所が分かる分確保しやすい。」

アース(ハクリュー)「・・・・・・人質に取られたら?」

タイト「同僚に狙撃が得意な奴がいる。
    一旦身を退き、そいつに任せようと考えている。」

アース(ハクリュー)「危ねぇな!!」

タイト「そんなことより、今は目の前の状況に目を向けろ。」


確かに今は迷っていられるような状況ではない。
タイトは意を決し、言う。


タイト「・・・・・・潜入するぞ。」

アース(ハクリュー)「本気かよ。
    ひょっとしたら、お前は俺が今まであった中で一番面白い奴かもな。」

タイト「それは良かった。
    だが、今回はお前が思っている程暴れられないと思うがな。」


タイトとアースは、一度研究所から離れ森の中へ入る。
見張りの目から逃れるためである。
しかし問題となるのはどこから忍び込むかだ。

研究所の四方は当然目に付くため当然却下。
となると上か下かになる訳だが、地下から行く手段がないためこれも却下。
よって上・・・空からとなる。

幸いアース・・・ハクリュー種は飛行能力を有するためこれは可能だ。
さらにこの悪天候、目視は不可能だからこそこれは成り立つ。
唯一目視される可能性がある飛翔時も、これまたハクリュー種の能力である天候操作により霧を一時的に発生させることで身を隠す。
さらにさらに問題無いとは思われるが、念のために観測用レーダーに捉えられないよう、タイトの使っている仕事用の特注携帯電話でジャミングも行う。
そして保険として、タイトは自身の会社に対し、6時間以内に連絡が入らなかった場合にはヒマワキシティの警察へ通報するよう伝える。

これで侵入のための準備は整った。



























アクア団員「う、あ・・・。」

ドサッ

タイト「上にも、見張りを付けているとはな・・・・・・。」


今し方タイトの肘打ちにより屋上の見張りを行っていたアクア団員は気を失った。
幸い発生させていた霧が暗雲に紛れており、下降中は気付かれなかったために、他の物に連絡が回る前に口を封じることが出来たのだった。


アース(ハクリュー)「こいつはどうするよ?」

タイト「身動きが取れないように縛っておく他ないだろう。
    それに後から重要参考人になる。」


タイトは侵入できそうな場所を探す。
階段や窓からは当然見張りにすぐ見つかる可能性からして無理だ。
となると、


タイト「(やはり通気口から行くしかないだろうな・・・・・・。)」


通気口内では敵に見つかる可能性は低い。
しかし、もし戦闘になってしまった場合はロクに身動きが取れないため、ヘタな攻撃は行うことが出来ない。


タイト「(こいつには技マシンが使えない以上、手持ちの技だけでは少々厳しい場面もありそうだな・・・・・・
     俺もやるしかないか。)」


タイトはナックルを取り出し、両手にはめる。
準備が整い、彼はアースへと声をかける。


タイト「あまり大声を出すな、それに単独先行をするな。
    そして博士の娘さんの保護が最優先だ、いいな?」

アース(ハクリュー)「奴らをシメるんじゃないのか?」

タイト「クライアントからの依頼を優先するのが当然だ。
    こっちは慈善事業としてこんなことをしているんじゃないんだ。」

アース(ハクリュー)「チッ・・・・・・。」


アースは舌打ちする。
彼からしてみれば納得がいかない。
タイトはこんな奴だったのかと思わずにはいられない。
しかし、それが傭兵である。
忠実に与えられた任務をこなすのが最優先であり、それで生きているのだ。

タイトを先頭にし、彼らは通気口へと潜り込んだ。
それぞれ異なる目的を果たすために・・・・・・・・・。




Partner's Date
タイト
Pokemon
ハクリュー(NN:アース)



>>To be continued!!

<次回予告>
緊迫の研究所内。
動きを封じられるタイト。
キレるアース、果たして・・・・・・。
※なお、この次回予告には多少の嘘が含まれています