TOP>第1幕 動乱萌芽>アカネ編 第2楽章 Deep Red Flood


ハルキ「これは我等の近い将来を占う、最重要ミッションの一つであることは周知の通りだ。」


カナズミシティに存在する、ホウエン地方で最も大きなロケット団アジト。
そこのミーティングルームを使って、今回アカネが参加する作戦についての最後の調整が行われていた。
それを仕切るのが、作戦のリーダーであるハルキ。


ハルキ「マグマ団とアクア団。
    我々とは方向性の違う集団であり、これといった確執も無く、加えて最近の活動は極めて静かだ。
    だがホウエンで最も影響力を持つ団体である以上、念のために今後の動向を探る必要があるがゆえに今回の作戦が発令された。
    今回のミッションにあたって、各組織について分かっていることの大体は今説明した通りだ。
    その他の細かい部分は、各自で出発前に資料を読んでおいてくれ。」


彼は話を一旦締めると、用意していたファイルを全員に渡す。
どうやらそれが件の資料のようだ。

渡されるとそれを早速開き、簡単に目を通す者もいた。
その姿を眺めながらも、ハルキは続きの話を始める。


ハルキ「最後に、それぞれのアジトを担当する班と陣容を発表する。
    まず、マグマ団のアジトに潜入するのはタメノリ班。
    メンバーは・・・」



アカネ編 第2楽章 Deep Red Flood



というわけで私は今、マグマ団員を装ってマグマ団に潜入している。
マグマ団の衣装は普段着ることの多い服と、フードがある位しか違わず、違和感は無かったんだけど・・・。

活火山を掘って造られたアジト内では、至る所でマグマが流れているのを見ることが出来た。
でもそのせいでアジトの中は信じられない位暑いし、洞窟内だから蒸すしで環境は最悪。

このことで機嫌が悪かった私は、ともに行動する団員に愚痴を漏らしちゃった。


アカネ「リノンさん、こんな所にアジトを構えるとか信じられないわよね。
    この中に何時間もいたら暑さで倒れちゃうわ。」

リノンと呼ばれた赤毛の女性「うちは普段から似たような環境で仕事しとるけぇ大丈夫じゃけど・・・。」

アカネ「? 一体何をしているの?」

リノン「個人で鉄板焼きの店をやっとるんよ。
    店も広くないけぇ蒸気で蒸すしねぇ。」

アカネ「え、リノンさんも飲食店を?」


あれ、なんか親近感。


リノン「もしかしてアカネちゃんも?」

アカネ「ええ、タマムシのレストランで働いているの。」

リノン「接客? 厨房?」

アカネ「厨房の方。
    昔から料理が好きだったから、希望したの。
    そしたらその要望が通ってね。」


今までの話を聞いてて、『あれ? 働くも何も、ロケット団員じゃないの?』って画面の前のあなたは思ってない?
確かにいつもアジトで活動している人もいるんだけど、皆が皆そういうわけじゃない。

ロケット団はホテル運営だとか連絡船の運航だとか、一般の人の生活に関わる事業とかもやっている。
私がいるタマムシシティにある娯楽施設なんかもそうだし、この前リノンさん達と会食した料亭もそう。
そして普段は多くの団員がこういった所で働いているの。
中にはリノンさんみたいに個人営業の仕事をしている人もいるけどね。

このことは皆知っていることで、そのせいで警察もそうそう手を出せないからタチが悪い。

だから私はギャング・スターを目指している。
組織のトップに上り詰め、ロケット団の毒牙だけを抜いた組織へと変えるために。
外側から手を出せないなら、内側からというワケだ。

昔、同じような理由で組織に属している人と出会ってから、その方法を見つけた。
そして私はこの世界に入った。

話が逸れてしまったけれど、私とリノンさんの会話はそんな仕事に関してのもの。

話は弾み、気付けば私たちは意気投合していた。


リノン「このミッションが終わったら、自慢のお好み焼きを焼いたげる。」

アカネ「それじゃあ、お願いしま〜す!」


会話を遮るように、私達のイヤホンに通信が入ったのはその時。


タメノリ「こらリノン。
     なに、お前まで話し込んでるんだ。」

リノン「一通り退避ルートの確保は終わっとるけぇ、ええじゃろ。」

タメノリ「お前ならこの作戦の重みが分かってるだろ。
     何かあった時に、何事もなく逃げおおせられなければそこで終わりなんだ。
     慎重なくらいが丁度いいんだよ。」

女性の声「ま、そんなのは誰かさんが失敗しなければ関係無いんだけどね〜。」

タメノリ「ルセーぞ、サマナ。」


先日の蜜柑酒事件以来、タメノリさんに対する女性陣からの風当たりは強くなっていた。
ま、当然よね。
あんなことを平気でする人なんてお断りよ。


サマナと呼ばれた女性「そんじゃ、そっちは気にしないでやっといてねえ。」

アカネ「サマナさんも、誰かさんに襲われない様にね。」

リノン「ほうほう、何かあったらしごうしてやりんさい。」

サマナ「はあい。」

タメノリ「テメェら・・・。」


何か言ってきそうな雰囲気だったけれど、私は無視してイヤホンの電源を切る。
リノンさんも同じ様にしている。


アカネ「いいお返しになったわ。」

リノン「えっとやってやりんさい。」


私とリノンさんは顔を見合わせ、そして笑った。
モチロン、周りには気付かれないように。



























今回のミッションでは今の所、アジトの正確な場所を見つけること以外は、特に労することはなかった。
ここまで順調だと長期間の工作活動ならともかく、少しの情報を集めるためにこれだけの人数が必要だったのかも疑問に思える。

サーバが置かれている部屋で作業を始めて10分ほど。
さっきのオレの注意から始まった無駄な通話で少し時間を無駄にしたが、間もなく作業は終わりそうだ。

電話がかかって来たのはそんな時だった。

上着ポケットに入れていた携帯の振動に気付いたオレは、相手がハルキであるのを確認すると電話をとる。


タメノリ「どうした?」

ハルキ「こっちで今後の事を調べる過程で、かなり気になるものが見つかったんだ。
    これは以前から気にしていたことでもあるんだが・・・それがマグマ団の方ではどうなのかを調べたいんだ。」

タメノリ「それでオレらはどうすればいい?」

ハルキ「ひとまず俺たちがそっちに行くまで、今後の事を調べた後もそこで待機しておいてくれ。
    用意が整い次第、また通信を入れる。」


タメノリ「了解した。」


電話を切ると、会話の内容が気になったのかサマナが寄って来た。
変な想像をされたら敵わんということで、オレの方から先に口を開いた。


タメノリ「ハルキからだ。」


サマナはちょっと残念そうな表情をする。
全く、何を期待していたんだか・・・。
どうも心配は当たっていたようだ。


サマナ「でえ、なんて言ってたの?
    もしかして私達に手を出すなって釘を刺されちゃった?」


サマナは表情を戻して言った。
今まで残念そうにしてた割には、しっかりとオレに対する皮肉を込めて。


タメノリ「おめーら、人をからかうのもいい加減にしろよ。
     ・・・やることが終わっても、オレらはここで待機しとけって話だ。」

サマナ「ふ〜ん。」


伝えることを伝えたオレは、気の抜けた返事を聞くなり作業に戻った。
サマナの方はというと、その場でオレの作業の様子を黙って見ている。

何を考えているのか、しばらく経っても一向に自分から動く様子がない。

まさかこいつは、幹部候補のくせして自分がやるべきことを分かってないんじゃねえのか?
そこで仕方がなく声を掛ける。


タメノリ「どうした? あいつらにも伝えろ。」

サマナ「自分ですればいいじゃない。」

タメノリ「・・・オレがしたら、あいつら通信切るだろ。」

サマナ「あ、そうか。」

タメノリ「わざと言ってないか、おまえ?」


オレの言葉を無視して、サマナは胸に取り付けているマイクの電源を入れる。


サマナ「お二人さあん、我らがリーダーからの連絡よう。」

リノン「ハルキから? 一体なんじゃろ。」

サマナ「それがねえ・・・。」

マグマ団員「うおっ!?」


突然、その声は聞こえてきた。
どうやらマグマ団員がこの部屋に入って来たらしい。
オレは臨戦態勢に入る。


アカネ「い、今の声は・・・?」


あの小娘の情けない声が耳に入って来た。
いちいちこんなことで通話を中断するなってんだ。


サマナ「あ〜、ジェムヘンの"ねんちゃくえき"に引っ掛かった人が転んじゃったみたいねえ。」

アカネ「ジェムヘン?」


     

サマナ「わたしのベトベトンの名前。
    アカネちゃんには紹介がまだだったかしら?」

アカネ「へぇ、サマナさんはベトベトンを連れてるんだ。
    ところで・・・その人を放っておいたら誰か呼ばれるんじゃないの?」

サマナ「大丈夫、大丈夫。
    あとはタメノリが仕上げをしてくれるから。」


そう、この場にやって来た団員への対応は2段階の手順を踏んで対応している。

まず最初の段階で動きを制限させ、オレたちの方が先制できる形を作る。
そのためにサマナのベトベトンが粘着性の物質を部屋の数ヶ所に撒いた。
所謂"とおせんぼう"という技の応用だ。

これを踏んだ奴はその場から動けないまではないが、気付かずにその上を歩くと、さっきの団員の様に転倒し、反射的に声を出す。
その声でオレたちは、そいつに気付くことが出来るわけだ。

そして次の段階で確実にオレたちの事を忘れさせる。
そのための手段がオレのスリーパーによる"催眠術"。


タメノリ「マグナス。」


オレは近くで静かに座る自分のスリーパー、マグナスに合図を出すと、サーバの上に登る。
そして粘着液にかかっている団員の背後をとり、口を押さえて声を出せないようにし、マグナスの方に目を向けさせる。

多少暴れられようが問題はない。
スリーパーの催眠術はよく効くからだ。
目を合わせて3秒もあれば、大抵の奴は暗示を受け付ける状態になる。

3秒後、その状態になったことを示すように、そいつはおとなしくなった。
それを確認したマグナスは潜在意識に働きかける。
     





マグナス(スリーパー)「この部屋には貴方以外誰もいない。
           そして貴方のいる場所から先は、危険で足を踏み入れられない。
           注意して自分の仕事に戻りなさい。」


その後、オレはそいつの靴に付着した粘着液を取り除き、その場を離れる。

しばらくしてそいつは我に返った。
そして暗示の通りに、ここでの作業を淡々と始める。

危険がなくなった所で、オレはサマナにさっき出した指示のことを訊いた。


タメノリ「あいつらに伝えたか?」

サマナ「ええ、ちゃんと伝えましたとも。」



























ハルキ「他の奴らは今どうしてる?」

タメノリ「サマナの案内でカナズミ観光だと。」

ハルキ「そうか。
    折角ホウエンまで来たんだから、そりゃあ色々と行ってみたくなるよな。」

タメノリ「この忙しい時期に呑気なもんだぜ。」

ハルキ「ふふっ、そうだな。」


オレは微笑すると、またパソコンのモニターに集中する。

マグマ団とアクア団の両組織のアジトで行った作戦の成果自体は既に本部に報告した。
現在オレが行っているのは個人的な調査。
先の作戦で見つけた興味深い事柄に関することだ。

今はそれぞれのアジトで手に入れた情報を手掛かりに、他の情報を得ようとしている。


タメノリ「それにしてもキレるな、おまえは。
     いや、大したもんだ。」

ハルキ「オレもただアレを見ただけでは何も思いもしなかっただろう。
    お前だって昔から疑問に思っていただろう?」

タメノリ「まあな。
     だが、オレを含めた他の者はそこで終わりだと言っているんだ。
     いくら疑問に思ったところで、あの場にアレがあっても何も思わないぜ?」


オレたちの会話の中に出てくるアレとは金の玉、すなわち金塊。
どちらのアジトからも見つかったものだ。

アクア団のアジトにて相当量の金の玉があったことで、以前からその資金源に関して疑問を持っていたオレはこれが資金ではないかと推測。
また、その考えに至った時点でタメノリに連絡をし、マグマ団のアジトでも同様の調査を行った。
そして入手経路を調べるべく、本来の作戦で必要となる以上のデータをコピーして持ち帰り、今に至る。


ハルキ「この貸金庫の口座情報から得られるのはこんなものか。」

タメノリ「しかしまあ、これで奴らが自分たちで発掘している線は無くなったな。」

ハルキ「オレは・・・以前からおかしいと思っていたッ!
    なぜこれといった支持も無く、密売なども行っていない組織が、資金源も無いのに規模を徐々に大きくしていけたのかを!
    それが今、ありありとッ!!」


気付けばオレは柄にもなく興奮していた。
長年の疑問が氷解する時が近付きつつあること、そして1つの闘争を終わらせられる手掛かりを自分が掴もうとしていることに。

だが、その時に鳴った部屋のチャイムがオレに平静を取り戻させてくれた。
オレはインターフォンの方へ小走りで向かい、来客に応える。
インターフォンのモニターに映し出されたのはサマナ。


サマナ「たっだいま〜!」

ハルキ「今開ける、上がってくれ。」


パネルを操作して電子錠を解除する。
そして玄関で5人を出迎えに行き、リビングへと通した。


アカネ「へぇ、流石はカナズミ支部の幹部ね。
    とっても広い部屋だわ。」

ニット帽の男「なあ、調べ事は進んだかよ?」

ハルキ「それなりにな。
    どうだシゲヒサ、お前も手伝わないか?」

シゲヒサと呼ばれたニット帽の男「いや〜、おれは遠慮しとくぜ。」

サマナ「でもさー、どんなことが分かったぐらいはコトキ支部の代表として聞いとかなくちゃねえ。」

アカネ「サマナさんが真面目なこと言うとなんかヘン・・・。」

サマナ「ちょっとアカネちゃん、それってどういう意味〜?」

シゲヒサ「分かるぜー、アカネ。
     いつもふざけてるように見えるもんな、コイツ。」

リノン「これまでの言動を見とったら、そう言われても仕方がないねぇ。
    残念じゃが。」

サマナ「あ、こら! みんなしてそんなこと言わないの!」


4人のやり取りは段々と迷走を始める。
元々はオレがしている調査の具合はどうかといった話だったはずなのだが・・・。
その光景に呆れたオレは問うた。


ハルキ「で、お前ら、結局どうするんだ?」

サマナ「それはモチロン、オネガイ!
    だって興味あるしねえ。」


オレはひとつ頷くと、離れた所でオレと同じ様に呆れた様子でサマナ達を見ていたタメノリを傍に呼ぶ。


ハルキ「タメノリ、説明の方を頼む。
    オレはコーヒーでも注いでくるよ。」

タメノリ「了解した。
     で、分かったことだったな。
     今んとこ・・・。」


ホウエンとの関わりが薄いサマナ以外の者は、イマイチ話を分かっていないようにも見えた。
その当人も・・・いつものことだが、真面目に聞いているのかと思いたくなる素振りだったが。

話を終えるとリノンがオレ達を手伝ってくれることになった。
そしてこういった調査に慣れていない他の4人は、後ろからその様子を眺めることに。


ハルキ「チヒロ、アカネ。
    お前たちもいずれ、こういった仕事をするようになるかもしれないから、よく見ておくといい。」

チヒロと呼ばれた少年「いえ、僕は・・・。」


チヒロは、やや暗い顔をして、視線を俺やモニターの方から逸らす。
今の言葉を受け、より一層モニターへの意識を集中させたアカネとは対照的だ。

どうやら、オレの言葉を表面的にのみ受け止めただけ。
やはり真意は伝わらなかったか。
まあ今の所は、それでも全く構わないが。


タメノリ「ハルキ、組織のリストと照らしあわせたが、どうもそれらしい情報はない。」

ハルキ「そうか、やはりダメか・・・。」


肩を落とすオレとタメノリだったが、そこへシゲヒサの声が聞こえてくる。


シゲヒサ「どこの貸金庫か分かってんならよー、結構、可能性はあると思うんだ。
     おれが行くぜ。」


オレを含め、全員がシゲヒサに注目する。
当初はそれほど関心が無さそうだっただけに、少し呆気に取られた感じだ。


シゲヒサ「おれのポケモンは『工作活動向き』だ。
     こうゆーのには向いてるからな。」


そう言いながら、シゲヒサは自分のポケモン―――ユンゲラーを繰り出した。



























というわけで、私はカナズミシティ中心部から少し外れた場所にある貸金庫の近くまでやってきた。
え、なんで私もいるのかって?

それは私も作戦チームに組み込まれたから。
チームは私とシゲヒサさん、そしてチヒロくんの3人。
シゲヒサさんがハルキさんと話し合って決めたメンバーだ。

私たちは貸金庫へは直接向かわず、近くの人気のない路地へ。
そして貸金庫に近づいた辺りで、シゲヒサさんが持ってきたショルダーバッグを何やらゴソゴソとやり始めた。


シゲヒサ「今、準備するからよ・・・。
     チヒロ! ボールからモココ出してな!」

チヒロ「えっ?」


チヒロくんは驚いたような声を返した。
そりゃ何も分からないのに、自分のポケモンを出せとか言われてもねぇ・・・。

そんな彼の返事に、シゲヒサさんはバッグから新品の監視カメラを取り出しながら答えた。


シゲヒサ「チヒロ、お前のモココ・・・なかなか高周波の"電磁波"を出せるんだってな。
     だからおれはお前を連れてきたんだぜ。
     その"高周波"でよ・・・電子機器を一時的に狂わせるんだ!」


チヒロくんは説明を聞いて理解したようで、ゆっくりと頷くとモココを繰り出す。
そして身を屈めてモココに顔を近づけると、静かに指示を出した。


チヒロ「ミスシング、空間中に"電磁波"を出すんだ・・・頼むよ。」


指示を受けたモココはゆっくりと立ち上がり、険しい目で"高周波"を発し始めた。
     





シゲヒサ「ホラ、アカネもだよ。」


突然、シゲヒサさんから私へ声がかけられた。

ああ、そういう理由でチヒロくんがチームに選ばれたのなら、私たちが選ばれたのもそのためだもんね・・・。
私もクチナをボールから出し、"電磁波"を使わせる。


アカネ「シゲヒサさん、この貸金庫から情報を探り出す計画はできているんですよね?」


シゲヒサさんの方を向くと、今度はその場に突っ立っているだけだった。
いつの間にかユンゲラーをボールから出してはいたけれど・・・。


アカネ「・・・・・・何やってるんです?」


私はシゲヒサさんに、思わず確認をとる。
というのも、さっきからずっと何もアクションを起こしていないように見えたから。
それで私は本当に作戦をする気があるのか、或いは作戦に関して実は何も考えてないんじゃないかと訝しんでしまったのだ。

シゲヒサさんは無表情でユンゲラーを指さす。


シゲヒサ「もう、とっくにやってるぜ・・・本当ならもっと近くまで行きたいところだが、貸金庫のもろ前でやっちゃあ流石にマズイだろ?」

アカネ「・・・・・・何を言ってるのかわからないんですが。
    いいですかシゲヒサさん・・・なかなか治らない電子機器の障害を怪しんで、私たちに感づくかもしれないんです。
    そうなったらもう情報は探れないんです。
    1分でも早く行動しないと・・・」

シゲヒサ「"物質交換"、終わったよな。
     だろ? ノーファン。」


私の話を最後まで聞かない内に、シゲヒサさんは自分のユンゲラーに声を掛けた。
ユンゲラーは強い超能力を使用したためか、手に持ったスプーンが折れ曲がっている。
     





シゲヒサ「OK! 2人とも!!
     "電磁波"やめッ!」

アカネ「えっ!? シゲヒサさん、一体なにをしたんですか!?」


私には全く、今起こっていることの理解ができなかった。
終わった・・・? 一体何をしていたというの・・・・?
チヒロくんの方もそれは同じのようで、呆気にとられた顔をしている。


シゲヒサ「"物質交換"だ・・・"トリック"の応用だよ。」


シゲヒサさんはそっけなく私たちに返事を返すと、クチナとモココが"電磁波"の仕様をやめたのを確認し、携帯端末の電源を入れた。
"電磁波"が出ている間は電子機器に不具合が起きちゃうのは、私たちも同じだからね。

それで、さっきの私の質問の答えだけど、シゲヒサさんは手に持っていた監視カメラと携帯端末とを接続しながら教えてくれた。


シゲヒサ「通りにある監視カメラと同じ型の別の監視カメラとを交換したんだ。
     なーんも起こらなきゃバレっこねーぜ!」


シゲヒサさんはハルキさんに、これから映像データを送ると連絡すると、端末と接続したままカメラをバッグにしまった。
そして私たちはそれぞれ自分のポケモンをボールに戻して、次の貸金庫へ向けて歩き出す。



























タメノリ「共通して同じ男が映っているな。
     こいつが資金提供者の可能性、大か。」

ハルキ「すぐにこの男の調査が始められるよう、準備を整えておくか。」


オレたちは早速、送信されたデータのうち、貸金庫の利用履歴にあった時間周辺の映像解析をしていた。

そして、解析が終了した頃、再びシゲヒサから連絡が来た。
2件目の貸金庫での情報入手にも無事に成功したようだ。

早速、送られてきた映像データを受け取ったものから順に軽く確認してみる。


ハルキ「こいつは・・・!」


再生開始から程なくして、オレは思わず声を上げた。
それは先程と同じ男が映っていたから。
こう言うと特に驚くほどのものではない。

しかし問題は2つの貸金庫を利用しているのが、それぞれ異なる組織だということなのだ。
これにはタメノリとリノンも驚きを隠せず、閉口してしまっている。

この金を供給する存在、まさかとは思うが同一ということか。
だがそれならば、なぜ敵対し合う両組織にそれを提供しているのか。
その点が腑に落ちない。

ここでオレはシゲヒサに連絡を入れ、チヒロと少し話がしたいと伝えた。
電話を替わったチヒロに、先程のことで少し動揺していたオレは努めて普段通りの調子で語りかける。


ハルキ「なあチヒロ、オレがお前に訊いたことを覚えているか?」

チヒロ「え、ええ・・・でもそれがどうしたんですか?」

ハルキ「もしもこの調査に成功したら、オレを手伝わないか?」

チヒロ「それって、どういう・・・?」


ここでオレは声のトーンを落とし、この件に自分がどう関わるつもりでいるかを伝える。
タメノリはともかく、他の4人に聞かれるべきことではないと思った。
しかしオレに返答するチヒロの声は暗かった。


チヒロ「僕には、勇気はありません・・・。
    第一、そんな恐ろしいことに足を踏み入れたくない・・・。」

ハルキ「いや、無理というのならいいんだ。
    引き続き頼むぞ。」

チヒロ「はい・・・。」


チヒロのことをある程度理解しているつもりでいるオレは、最初から断られるものと思っていた。
それでもこんなことを話したのは、受けたショックから身を守るため、少しでも安心感を得ようとチヒロを味方につけようとしていたから。
幹部の身にある者としてなんとも情けない話だ。


リノン「ん・・・?」


ふと、リノンの手から作業の音が消える。
どうしたのやらと、パソコンのモニターに目を移すと異変が起きていた。


タメノリ「映像データの受信が止まった・・・?」


モニターをよく見れば、インターネットとの接続が切れていることを示すアイコンの表示が。


ハルキ「インターネットに接続出来なくなっているな。
    まさかこんなトラブルが起きるとはな・・・。」

サマナ「こんな時に、とんだ災難ですなぁ〜。」

タメノリ「オラ、そんな事言う暇があったらルータの状態をチェックするなりしろよ。」

サマナ「あたし、そういうのよく分かんないし・・・パスパス。」

タメノリ「ったく、しょうがねぇな。」



























同時刻、インターネットはホウエン全土でも停止していた。

ハルキたち、彼らの誰もがそれを知る由は無し。

そして大地が一度揺れた。

これが後に"Deep Red Flood(深紅の充満)"と云われるホウエン史上初の大規模なテロである。






Partner's Date
アカネ
チヒロ
  タメノリ  
  リノン  
シゲヒサ
サマナ
  ハルキ  
Pokemon
サンダース
(NN:クチナ)
モココ
(NN:ミスシング)
スリーパー
(NN:マグナス)
ユンゲラー
(NN:ノーファン)
ベトベトン
(NN:ジェムヘン)



>>To be continued!!

<次回予告>
突如、ホウエンを襲った異変。
そしてアカネたちにも危機が迫る。
走るアカネ、キレる関係、果たして・・・。
※なお、この次回予告には多少の嘘が含まれています

<あとがき>
今回は一人称のパートを多くしてみました。
アカネ編は以降もこれで行くかも。

今回の話はある意味リュウト編のリベンジとも言えるかもしれませんね。
同じ様な話でしたが、ある程度の長さになった点は良かったのかな。

それにしてもまさか金の玉の件をこういった形で使うことになるとは思ってませんでした。
適当だったとはいえ書いておいて良かったかなといった感じです。
マルマインさんに感謝感謝。

さて、予定と違う終わらせ方をしたために、次回の話が長くなりそうですよ・・・。