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アカネ編 第1楽章 私の夢はギャング・スター



インヨ地方、サイセキシティ。
ここはカントー地方、ジョウト地方の存在する国土本島の最西端に位置する街。
そして、この街からホウヨ海峡を隔てて向かい側にあるのがホウエン地方の玄関口であるノースホウエンシティとなる。

また、この街はフグやアンコウ、クジラなどといった海の幸を使った料理が名物だ。

その街の中心部からやや外れた、それなりの門構えを誇る建物に今、大きな茜色のリボンをした1人の少女が入っていった。
ここもそういった海鮮料理を扱う店の一軒。


受付嬢「いらっしゃいませ。
    ご予約の方ですか?」

茜色のリボンをした少女「ええ・・・7人で予約を入れていると思うんですけど・・・・・・。」


息も切れ切れにそう言いながら少女は受付嬢へと自分が働いている店の社員証を渡した。
受付嬢はそれを受け取り、しばらくお待ち下さいと少女に言うとレジカウンターの裏へ。

この店まで走って来た少女はようやく一息つくことができた。
そして少しは呼吸も落ち着いてきたかなという所で受付嬢が戻ってくる。
その顔は先程よりややこわばっていた。


受付嬢「お待ちしておりました。
    他の方は既に2階、階段を上がって奥の間で・・・」

茜色のリボンをした少女「分かったわ、ありがとう!!」


少女は部屋の場所だけ聞くと、受付嬢が全ての言葉を言い終えぬうちに慌てて走り出した。
整えた呼吸はまたも乱れる。
勢いよく階段を駆け上がり、言われた部屋に着くなり引き戸を勢いよく開けた。


茜色のリボンをした少女「ごめんなさい! 道に迷って遅れちゃった!!」


そこには既に5人の男女がいた。
中には少女よりも若いと思われる者もいる。

全員の目線は少女へと向けられていた。
1人、日焼けをした女性だけは驚いたような顔をしていたが他の全員は落ち着いた表情のまま。

全員が黙ってしまっていた。
5人が囲むテーブルの上の鍋がぐつぐつ煮える音と少女の粗い息遣いの音だけが聞こえる。
この沈黙を破ったのは、一番手前に座っていた長髪の男。


長髪の男「ここまで来るのに疲れただろう。
     さ、まずは座って何か飲んで、喉を潤しな。」


男は息遣いから少女の疲労を察し、気を利かせてきたのだ。
傍にある蜜柑が描かれたラベルの貼られた瓶を持ち上げ、言葉を続ける。


長髪の男「オレが頼んだコイツでいいなら注ぐぜ?
     この近くには産地もあっていいものができるからな。
     酒が飲めない訳でもないだろう?」

茜色のリボンをした少女「ええ、多少は・・・ね。」


少女はまだ使われていない食器の置かれている席にゆっくりと腰掛けた。
男はその席に伏せて置かれていたグラスを立て、それに瓶の中身を注ぐ。


茜色のリボンをした少女「ありがとう、それくらいでいいわ。」

長髪の男「そうか。」


グラスの1/3程まで注がれた位で少女がそう言うと、男はグラスにそれを注ぐ手を止める。
そして少女は大きく息を吐き、息を整える。


茜色のリボンをした少女「いただきます。」


気持ちを落ち着かせた所で、グラスに手をやる・・・が。


茜色のリボンをした少女「うっ!」


彼女はグラスを持ち上げることなく、口をついて出た言葉とともに眉をひそめたまま固まった。

グラスから香る匂いが蜜柑酒の柑橘系の香りでも、アルコールの匂いでも無かったのだ。
それはもっとおぞましいモノの匂い。

だがいつまでも固まったままでいる訳にもいかない。
グラスにそれを注いだ男が追い討ちをかけてくる。


長髪の男「どうした?
     お前はオレがわざわざ注いでやったそれを『いただきます』って言ったんだぜ。
     いただきますって言ったからには飲んで貰おうか。
     それともヌルくなってるから飲むのは嫌か?」

茜色のリボンをした少女「(なんてセクハラ・・・・・・!!)」


眼だけを動かして周りを見てみれば、長髪の男は勿論のこと全員の様子がおかしかった。

燃えるような赤毛の女性は自分のグラスを持つ手を止め、横目で鋭い眼差しを向けている。
部屋に入って来た時に驚いた表情を見せていた褐色の肌の女性はテーブルに肘をつき、呆れたような表情でアカネが手にしたグラスを眺めていた。
同じ眺めるにしても奥にいるニット帽の男は姿勢を崩し、ショーでも見物しているような感じだ。
そして少女よりも若いと思われる少年は顔を赤くして下を向いていた。

少女はこの追い込まれた状況で気付く。
よくよく考えてみれば相手は油断のならない者達だったのだ。
同じ組織の者とは言え、ここにいる全員は普段から顔を合わせない者同士。
巨大な犯罪組織である"ロケット団"の団員たるものが素直に互いを仲間として認めることなどそうそう無いことだと。


褐色の肌の女「くっだらな〜い。
       こんな娘にそんなイタズラして楽しいの?」

長髪の男「オレはただこいつがいるというから注いでやっただけだ。
     どこがイタズラだと言うんだ?」

褐色の肌の女「あっそ。」

長髪の男「まあ、こいつがやっぱり嫌だ、飲めないだなどと言うのなら強制はしないがな。」


示される退路。
だが退けば今後、ナメた扱いをされてしまうだろう。
それは高い地位を目指す彼女にとっては避けたい事実。

依然固まったままの少女。
再び沈黙がその場には流れていたが、先程と違って空気は重い。

そして漸く少女はグラスの下の方にゆっくりと手を動かすという動作をした。
と、思ったその瞬間、彼女はグラスを一気に口元へとやる・・・!!


一同「「「「「えッ!」」」」」


あまりにも突然、そして予期せぬ行動に全員は驚愕の表情で少女の方へ顔を向ける。
確かに空になったグラスが彼女の手には握られていた。
そのままグラスは静かにテーブルの上に置かれる。

少女は勝ち誇ったかのように口元を緩めていた。


気弱そうな少年「そんな、うそッ?!」

褐色の肌の女「信じらんない!」

赤毛の女「いいや、飲んどる訳ない!
     どこに隠したんよ!?

ニット帽の男「わははっ! お・・・お前、面白いな! 本当に飲んだのかッ!
       教えてくれよオレにだけ! な! 教えろよ!」


その場にいた者は口々に少女へと言葉を掛けてくる。
ただ1人、長髪の男だけは驚愕の表情のまま何の言葉も発せずにいたが。


茜色のリボンをした少女「同じグラスで他のものを飲んだら味が混ざって嫌なの。
            ちょっと新しいのと換えてくるわね。」


少女は逃げるように席を立ち、廊下へと出て行く。
この窮地を逃れるために使った手を訊かれたくはなかったからだ。
また、必要以上にこの場で目立ちたくは無かったこともある。

彼女は廊下に出て、戸を閉めると大きくため息をついた。
胸を撫で下ろすと同時に、緊張感で忘れていた右手の痛みがじんじんと伝わってくる。


茜色のリボンをした少女「いたたた・・・まあ、あんなものを飲まされるよりはマシだけど。」


今のトリックはこうだ。

それは成分の98%が水分からなるもの。
少女はテーブルの下にサンダースを繰り出し、"ミサイル針"をグラスのある場所の真下に撃たせていた。
そして針は後から飛んでくる針に次々と押され、グラスの中まで貫通する。
サンダースは強力な電気を帯びた体毛を針の様にして飛ばすことができる。
それにより水分は電気分解され、周りにはまるでそれを飲み干したかのように見えたのだ。

彼女がグラスの下の方へ手を動かしたのは、電気分解の瞬間を見られないようにするため。
このために狙いの逸れた"ミサイル針"の一部が彼女の手に当たってしまったが、背に腹は代えられない。

さて、グラスを交換してもらいに1階へ降りるため、階段の方へ向かう少女。
そこですれ違った背の高い青年に声を掛けられた。


背の高い青年「君は・・・確かタマムシのアカネじゃないか?
       ようやく来たのか。」

アカネと呼ばれた少女「? あなた誰?」

ハルキと名乗った青年「俺はハルキ、今回の作戦で君たちの事を任された者だよ。
           それにしても君は思っていたよりも随分と若いな。」

アカネ「これ。」


アカネは話を遮り、先程の事件(?)に使われたグラスを見せる。
ハルキはきょとんとしてそれを眺めている。
訳が分からなそうにしている彼にアカネは追及する。


アカネ「もしかしてあなたがやらせた訳?」

ハルキ「何を言っているんだ?  話が見えない。」

アカネ「お酒と称して、私にヘンなものを飲ませようとしたことよ!
    いくら初めて会う相手だとしても程度ってものがあるんじゃない!?」


問い詰めるように強く出るアカネ。
だがハルキの方はそれに全く動じず、ただ静かに彼女の話を聞いていた。
そしてアカネの言葉が止むと、少し考えて彼女に言葉を掛ける。


ハルキ「誰がやってきた?」


冷静に言葉を紡いできた相手の態度に少し驚くアカネ。
彼女は不思議と、最初から相手に素直であったかのようにその言葉に応えてしまう。


アカネ「え、ええ・・・長い髪の男の人よ。
    あの人の名前はなんていうの?」

ハルキ「そいつは昔の部下でタメノリってんだ。
    奴には俺の方からよく言っておくよ。」

アカネ「あ、うん・・・よろしく。」


ハルキはそう言うと他の者がいる部屋の方へと歩いていった。
それを立ち止まったまま見送るアカネ。
彼女は自分でも何故かは分からなかったが動くに動けなかったのだ。

分かりやすく圧迫感を与えてきた先程の男とは対照的な、静かなる威圧感。
恐怖感よりも、相手に飲み込まれるような感覚に陥ってしまう。

これが、ロケット団の幹部である今回の作戦のリーダー、そして行動を共にする仲間たちだった。



























アカネがロケット団に入団したのは一年半程前のことだ。

彼女が育った街、タマムシシティ。
この街のロケット団のアジトは、彼らの営業する遊興施設の地下に造られていた。
むしろ遊興施設の方が上にあるという方が正しいか。

アカネは、過去に幾度か(ロクなものではないが)用があってアジトを訪れた時と同じように店の一角の壁の前へ。
そこに強い衝撃を与えると、壁は脆くも崩れて地下へと続く階段が現れる。


アカネ「(ほんと、アジトの入り口を変える気は無いのかしら・・・・・・。)」


そんなことを考えながら階段を下りて行くアカネ。
そして階段を降りた所で、壁を壊した際の衝撃音を聞き付けて階段を上がって来た団員に遭遇する。
その団員達は彼女の姿を見た途端に震え出す。


ロケット団員A「あっ、あのう・・・」

ロケット団員B「きょ・・・今日はどのような御用で・・・」


アカネが最初にこのアジトを訪れた時に痛い目に遭わされたことで、
それを知る古参の団員は今も彼女にビクビクしていた。


アカネ「ハナミズの人に会わせてちょうだい。」

ロケット団員A「ああ、カエデ様のことで・・・。」

ロケット団員B「またボコボコにされるのかと思ってヒヤヒヤしたぜ―。」


今の団員の言葉にムッとするアカネ。
2人の団員は自分達に用が無いものとして胸を撫で下ろしていたが、彼女の表情が曇ったのを見て、またもビクつき始める。
それがいけなかったというのに・・・。


アカネ「ちょっと、そんなに怖がらなくてもいいじゃない。」

ロケット団員B「そ、そう言われましても・・・なあ?」

ロケット団員A「あ、ああ。」

アカネ「いいえ、嫌でも慣れて貰うわ。
    なぜならあなた達は、私の仲間になるのだから。」

ロケット団A&B「「えええええっ?! 本気ですかぁ!?」」
アカネ「あー 耳元でそんな大声出さないでえ―」


近くで突然大声を出されたことで驚きのあまり力が抜けるアカネ。

さて、団員の2人が大声を出したこと。
さらに彼らが階段へと様子を見に行ってから時間が経っていたこともあって他の団員達が集まって来た。

けれども別に近くの2人の団員とアカネが揉めていた訳でもなかったので臨戦状態になったりすることもなく、ただ本当に野次馬のように集まっただけだった。
そしてその中に紛れている古参の団員もやはり、先程の2人と同じようにビクつき始める。


ロケット団員C「げぇッ! あいつは・・・!!」

ロケット団員D「およよ・・・。」


しかしここ数年で入団した団員達は当然彼女のことを知らない。
そういった者達は自分の先輩にあたる団員の様子を見て、アカネがヤバイ相手だと思い萎縮する。

それでもアカネは14歳の少女。
中にはその見かけから、彼女を畏れる先輩団員に呆れる者もいた。
集まった団員達の中から歩み出てきた若い団員もその一人。


ロケット団員E「全く、先輩方はこんなガキ相手に何ビクついてんだ?
        それでも本当に天下のロケット団なのか?」

ロケット団員C「お、おい!
        いくらお前が腕に自信があるからって言ってもやめとけ!」

ロケット団員D「そ、そ、そ、そうだぜ・・・」

ロケット団員E「またまた御冗談を。」


アカネを知る団員達は彼を引き止めようとする。
だが彼はそれを無視してギャロップを繰り出し、挨拶代わりとでも言うように"火の粉"をアカネに向かって放たせ、彼女を挑発する。

それまでの彼の様子を無意識に眺めていたアカネはこれを慌てて避ける。
今回の訪問では戦闘になるような雰囲気は無かったこともあって、彼女の顔からは血の気が引いていた。
そして弱気になった心を隠すように、攻撃を仕掛けてきた団員へと喰ってかかる。


アカネ「ちょっと! いきなり何してくれるのよ!!」

ロケット団員E「なんだ? もしかしてビビッたか?
        ハハッ、こんな奴にビクビクするなんて先輩もまだまだなんじゃあないですか!?」


アカネの言葉に応えることもなく、彼女や自身の先輩をからかう団員。
彼はなおもギャロップに"火の粉"を撃たせる。

この行動にアカネの心からは弱気になった部分は消え、逆に怒りで蒼白くなっていた顔は赤くなる。
そして彼女は団員の執拗な挑発に乗る。


アカネ「あったま来た! お願い、クチナ!」


団員が繰り出すはトップスピードは勿論のこと、瞬発力も高いギャロップ。
アカネが繰り出したのはそれ以上の機動力を持つサンダース。


アカネ「さっきのお返しよ! "ミサイル針"!!」


まずは相手の"火の粉"による煩わしい挑発を黙らせるために、速射性と弾速に優れた"ミサイル針"で牽制する。
その技のスピードもあって、攻撃はギャロップに命中する。

サンダースが物理攻撃が苦手なこと、そして"ミサイル針"が虫タイプの技としての性格が強いこともあり、ギャロップは殆どダメージを受けた様子は無い。
だが予定通り"火の粉"を乱れ撃ってくることは止め、団員は新しい指示を出す。


ロケット団員E「無視して突っ込め! "突進"!!」


ギャロップの立派な体躯と、その脚力が生み出すスピードから繰り出される"突進"の破壊力は相当なもの。
みるみるうちに加速しながら一直線にサンダースへと向かってくる。
だがそのサンダースもスピードでは負けない。
機動力を活かして素早く攻撃の軌道から外れ、ギャロップの背後へと回り込むように動く。

勝った!
そう思ったアカネは"10万ボルト"での攻撃をサンダースに指示する。
早めに指示を出すことで、攻撃に必要な電気を移動中に帯電させられる。
相手にこちらの次の手が分かるという難点こそあれど、背後に回られれば相手は攻撃を簡単にはかわせない。

ギャロップの方は相手が背後に回っていることが分かるや否や急停止。
猛烈な加速とスピードを生み出す脚力は逆にそれを可能にする。
しかしその停止には多大な隙を晒すことに。

それを狙ってほぼ真後ろから攻撃に入るサンダース。
だが・・・、


ロケット団員E「"うしろげり"だ!!」


後ろを取ったことは優位ではなく、むしろ相手の攻撃範囲に入ってしまっていた。

後ろ足で力一杯蹴る動作は停止動作中のギャロップが可能な数少ない行動。
それはブレーキングの要である前足を用いず、自由の利かない頭部の動作を全く必要としない。
加えて慣性により下半身が浮き上がろうともそれほど問題無く行える。

そしてアカネが安全地帯だと思っていた背後も、ギャロップにしてみればそうではない。

ギャロップの眼は顔の側面に位置し、真後ろの僅かな範囲を除けば視界に捉えることが出来る。
距離までは掴めないが、トレーナーから攻撃指示が出たということは相手が射程内にいるということ。

しなやかな体躯から繰り出された"うしろげり"は、まるで足が伸びたかのように襲う。
強靭な脚による一撃をまともに喰らってはひとたまりもない。


アカネ「(いけない・・・!)
    "パルスガード"!!」


攻撃に使うために帯電した電気を、慌てて防御へと回す。

"パルスガード"は簡易版の"守る"とも言うべきアカネのサンダースの防御技。
サンダースが行う通常の"守る"の場合はより強力に電気を全身に纏い、タイミングを合わせることで相手の攻撃を完全に無力化する。

一方で"パルスガード"は攻撃の最中であろうが、帯電さえしていればすぐに使え、"守る"のように消耗度合いは少ないため連続で使うことが可能。
だが代わりとして効果は電気が生み出す反発力によるダメージの軽減に留まる。
その軽減量は安定こそしているが、あまりにも強力な攻撃の前には無力だ。

今回の使用もダメージを軽減するが、その反発力で大きく吹き飛ばされてしまった。
バランスが崩れた状態で飛ばされたために着地に失敗、倒れ込んでしまう。
逆に動けるようになったギャロップ側にチャンスが生まれる。


ロケット団員E「これでしまいだ! "ひばしら"!!」


指示を受けたギャロップはサンダースに向け、今度はゆるやかに加速を始める。
先程とは異なり、ギャロップのたてがみの炎は激しく燃え上がり渦を巻いていた。
     





大技を繰り出そうというのは火を見るよりも明らか。
サンダースが不利な体勢にある中、なんとか抵抗しようとアカネは指示を出す。


アカネ「いけぇ、"サンダーニードル"!!」

ロケット団員E「フン、そんなのはもうギャロップには効かないぜ!!」


団員は"ミサイル針"を放つ体勢に入ったサンダースを見てそう言った。
彼の言葉の通り、ギャロップの方は戦闘の最初に"ミサイル針"を放たれた時にどのタイミングで攻撃を避ければいいのかを心得ていた。
その感覚を頼りに攻撃を避けるために跳躍するギャロップ。
跳躍の最高点に達した所で攻撃を放つ・・・つもりが、ギャロップはタイミングを外された。

アカネの指示した"サンダーニードル"。
それは通常の"ミサイル針"と同様のタイミングで避ける技ではなかったのだ。

サンダースは強力な電気を帯びた体毛を針の様にして飛ばすことができる。

これはサンダースを使う者、そうでない者でも多くが知る所である。
しかし使う側としては電気を帯びた針を飛ばすか、そうでないものを飛ばすかで使い分けたい時がある。
アカネは前者の方を"サンダーニードル"とし、分けて指示が出来るようにしていたのだった。

そして針にどれだけの電気を流すかは個体、或いはトレーナーによって差が出る。
アカネの場合はその指示を出した際、針に流す電気量を相当なものにするようサンダースに言っていた。
それは相手がマヒ状態になる可能性が出るほどまで。
身体表面を流れる他の多くの電気技と違いって針が身体に刺さり、筋肉や神経まで電気が通りやすい分その効果への期待も大きいのだ。

代償として通常の"ミサイル針"に比べて連射性と速射性は犠牲になっているが、今回はそれが活きた形となった。
攻撃の大部分に命中したことでギャロップはマヒしてしまう。

それに伴い、中空で突然マヒしたことでバランス感覚が崩れたこと、
加えてタイミングを外されてモロに攻撃を受けたことによる驚きもあり今度はギャロップが攻撃できぬまま地に堕ち倒れ込む。

再度の形勢逆転だ。


アカネ「ようし今よ! "10万ボルト"!!」


勝負あり。
2度の攻撃の直撃を受けてギャロップは戦闘不能に。
この逆転劇には周りの団員達からオォ〜と歓声が上がる。


ロケット団員E「まさか、本当にこんなガキに負けるだと・・・。」

アカネ「私と同じ位の年のあなたにガキって言われたくないわ。」


見下していた相手に敗れた団員はショックのあまり地に膝をついた。
彼から漏れ出した言葉にアカネは不機嫌そうに応える。

その時、ざわついていた団員達のうち、アカネと戦った団員の後ろの方にいた団員達の声が止んだ。
しばらくするとその場所を中心に徐々に声が止んでいき、最終的には先程の熱気が嘘のように静かになる。
理由は1人の幹部らしき女性団員。


幹部らしき女性団員「あ゙ん゙だだぢな゙に゙を゙ざわ゙い゙で・・・」

ロケット団員一同「「「「「「「これはカエデ様!!」」」」」」」


団員達は彼女のための道を空ける。
遮るものが無くなり、その姿はアカネの目にも映る。
それは彼女が会いたがっていた相手だった。


アカネ「あ・・・ハナミズの人。」

カエデと呼ばれた女性幹部「あら゙、久じぶり。 今日は何の用がじら゙?」


彼女は並行して歩く自分のラフレシアから受け取ったティッシュで鼻をかみながら、気さくに話しかけてきた。
その調子に合わせてアカネは答える。


アカネ「あの時のあなたの言葉を思い出したの。
    だから誘われた通りに入団することにしたわ。」

カエデ「私としてはちょっと冗談の部分もあったんだけど・・・まあ、嬉しいわ。」


あの時・・・それは数年前にまだイーブイであったアカネのサンダースが、知らないうちにシャワーズへと進化していたという事件。
なんやかやあって事件の真相は判明、シャワーズも退化してイーブイに戻り無事に解決した。
解決までの過程でアカネと出会ったカエデは、事件が解決した後に彼女にこう言った。
""「なんならいっそロケット団に入団しなさいよ」""

当時のアカネも、この言葉を軽く聞いていた。
だが後に彼女がロケット団を纏める立場、"ギャング・スター"になることを望んだ時に思い出したのだ。
まずは入団をせねばそれは夢でしかない。
そんな折にこの言葉は非常に大きな存在だったのである。


アカネ「それじゃあ私を新しい団員として迎えてくれるのね?」

カエデ「ええ、でもその前に・・・私にもあなたの実力を見せて貰いたいわ。」

アカネ「てことは・・・。」

カエデ「いくのよ、ラフレシア!」


ラフレシアは持っていたティッシュ箱をトレーナーであるカエデに渡すと、サンダースの前へと歩み出た。

連戦。
加えて相性は不利、相手はタマムシシティの団員達を纏める幹部。
アカネに緊張走る。
サンダースもそれに呼応し、ダメージを負った肢体に再び力を入れ直す。

相対するラフレシアも気合を入れるように、頭の巨大な花びらを手で揺らしていた。
先程のバトルが終わって解かれていた緊張の糸が、また急速に張りつめていく。
     





だが、ラフレシアの方がふと我に返ったように動作を止めた。
同時に緊張の糸もぷっつりと切れる。

ラフレシアの表情はやってしまった、とでも言うような唖然としたものだった。
理由はその場にいたものは嫌でも分かっていた。


「ハクション! ハクション!」「ハックション!!」「へっぶしゅっ!!」


頭の花びらを揺らすことで"アレルギー花粉"が撒き散らされてしまった。
それによりラフレシア以外の皆が皆、くしゃみが止まらなくなり最早バトルどころではない。

元凶であるラフレシアはただオロオロしながら周りの様子を眺めることしか出来なかった。






Partner's Date
アカネ
弱気そうな少年
  タメノリ  
赤毛の女性
ニット帽の男
褐色の肌の女性
  ハルキ  
Pokemon
サンダース(NN:クチナ)



>>To be continued!!

<次回予告>
時は戻って現在。
アカネを含む7人の団員達は作戦のためにホウエンへと上陸する。
そして触れたものはまやかしか、廻り始めるは運命の歯車。
意気投合するアカネ、キレるハルキ果たして・・・。
※なお、この次回予告には多少の嘘が含まれています

<あとがき>
少なくともこの小説内では飲酒法は日本と同一のものじゃないから問題ない(?)

こう塩漬けとかカツとかじゃない鯨を食べたいなぁって願望があるからして、鍋好きの私ゆえに最初の流れになりました。
スーパーとかだと、この2つ以外のものを見たことが無いんですよね。
結局、普通に鯨鍋(だったんですよあの鍋)を全員でつつくシーンは描かれなかった訳ですが・・・(ぁ
そしてノースホウエン、要は(ry

画像の方は出典元の作品を意識したものです。
今の人でどれだけの人が分かるのやら(汗)

自分で言うのもなんですが、アカネ編はどうしてこうなった・・・。
なお、およそ100ml相当のソレを僅かな時間で電気分解させられるかはちゃんと計算してないけども大丈夫と思います。
むしろ電気分解以前に発生する熱で蒸発して、蒸気が出てバレてしまいそうなもんですが・・・(ぁ

あと終わり方が中途半端な感じになってしまったせいで分かりにくいでしょうが、過去の話はあれで一区切りです。
以降、過去の話がまた出るかは未定ですがね。